約 6,940,509 件
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/240.html
「うぉおおおおっ!!」 カズキのサンライトハートが迸り、ベリトの肉体を吹き飛ばした。 粉砕され消滅するその巨躯の中心、暗く鈍い輝きを放つ六角の金属。 打ち砕かれたその肉体が再生する間隙を逃す事なく、蓮司の魔剣が飛んだ。 激しい金属音と、飛び散る火花。 核鉄に叩き込まれた渾身の斬撃は、しかし一片の傷をつける事さえ適わない。 「く……っ!!」 舌打ちと同時に蓮司は刃を引く。 刃を引かずにいれば魔剣が修復した肉体に巻き込まれるからだ。 同時に噴き出した闇が破損した肉体を修復し、溢れ出した力が消滅した巨躯を再構成させた。 ベリトの超越した再生力の源は、いわずと知れた黒い核鉄。 ヴィクター化の源でもあるその核鉄がエネルギーを無尽蔵に収奪して肉体を修復しているのだ。 故に、ベリトを完全に殺しきるには黒い核鉄を破壊するしかない。 だが、それができなかった。 エネルギードレインの力が暴走している現状では、ベリトとその核鉄に供給される生命力は世界総ての生物のそれに等しい。 人一人の力ではどれほど全力を込めても傷一つ付けるさえできはしない。 瞬間的にならば斬撃の威力を大幅に高める事は可能なのだが、それで殺しきる確証があるかと問われれば、首を横に振らざるを得ない。 (くそ……どうすりゃいい……!) カズキと共に無意味な攻撃を繰り返しながら、蓮司は必死に思考を巡らせる。 この状況では増援は望めないだろう。 強いて言うなら上空にいるベール=ゼファー。 彼女なら黒い核鉄を打ち砕くのも可能かもしれない。 だが、この場にはベルだけでなくリオン=グンタもいる。 ベルが黒い核鉄の破壊に回れば、当然リオンはベリトの防衛に回るだろう。 それを掻い潜り事を成す事ができるか。 わからないが、どうしようもない現状よりはマシだ。 蓮司はベルに向かって叫ぼうと天を見上げ、 「……!?」 天空に浮かぶ巨大な魔方陣に気付いた。魔法発動の際に顕れるモノとは違う。 規模こそ違うが蓮司はそれに見覚えがあった。 それは事あるごとに呼び立てられ、ひっきりなしに任地に送り出される時に使われるモノだ。 つまり―― 「転移結界? ――アンゼロット!?」 ※ ※ ※ 「座標固定完了! エネルギードレイン発生地点より周囲100mを隔離します!」 作戦室にロンギヌスの声が響く。 モニターに映し出されている荒い画像を見据えながら、アンゼロットは小さく頷いた。 蓮司達が闘いに赴いた後、彼女達は座して結果を待っているだけではなかった。 エネルギードレインの発生源であるベリトをファージアースから次元の狭間――アンゼロット宮殿の存在するこの場に引きずり込む。 ベリトの生命力が世界中の生命からの供給であるのなら、これによって供給は絶たれその力は大幅に削減されるはず。 世界の人々をエネルギードレインの猛威から救うと同時にベリトの力を減衰させる策であったが、リオンやモーリーの展開した月匣を潜り抜けてそれを為すには時間が必要だった。 もっとも、それは―― 「――宮殿内の全ロンギヌスに通達」 静かに、だが室内に満遍なく響く声にその場にいたロンギヌス達は振り返り、立ち上がる。 主の言葉を待ち受ける多くの視線を受けて彼女は瞑目し、そして再び言葉を紡いだ。 「現時刻を持って宮殿を破棄します。総員ファージアースに向かいなさい」 「アンゼロット様!?」 背後に控えていたロンギヌス・コイズミが驚愕を露に一歩詰め寄る。 しかし彼女はモニターに映るベリトを厳しく見据えたまま、有無を言わさぬ表情で口を開く。 「これは命令です。逆らう事は赦しません」 ※ ※ ※ 「大魔王ベール=ゼファー。一つだけ訂正をしておきます」 直上に浮かび上がった転送陣の紋様を目にしても、リオンの表情は一切崩れる事はなかった。 対処するでもなく、妨害するでもなく、むしろそれを待ち受けるようにただ沈黙を守っている。 次元の狭間に隔離されてしまえばベリトの力が失われてしまうのは、当然彼女にもわかっているはずだ。 リオンの態度にベルは眉をひそめるしかない。 「核鉄の力を暴走させるのは私の『目的』ではありません」 「何……?」 「いままでの事はあくまで『手段』。私の目的は”ここから”です」 リオンの言葉をようやく理解したベルが明らかに表情を変えた。 それまで顔に浮かべていた余裕が弾けとび、虚空を睨み据える。 「アンゼロット! 転送を止めろ!」 半ば無意味と悟りつつベルは叫び、しかしやはり転送は止まることはなかった。 転送陣が眩い輝きを放つ。 転送が始まり周囲の景色が変わっていく。 移り変わっていく世界の中、リオンは静かに言葉を紡ぐ。 「……彼女が『世界の守護者』である以上、選択肢は他にはありえません」 暴走した黒い核鉄は世界総ての命を蝕む。 エネルギードレインによるベリトへの力の供給を防ぐという意味以上に、『常識』という世界結界を形成する人々護るために狭間の世界に隔離するというのは当然の選択だった。 だがそれは同時に、ベリトをアンゼロットのいる世界に引き込むという事でもある。 それが意味するところは―― 「………ちっ!」 ベルは怒りをあらわにしてリオンを一瞥すると、眼下のベリトに向かって滑空した。 飛翔しながら膨大な魔力を練り上げる蝿の女王を冷ややかに見据えながら、リオンは小さく呟く。 「――王手詰み(チェックメイト)」 「なんだ!?」 急速に入れ替わっていく世界にカズキが思わず周囲を見回す。 一瞬の浮遊感の後、周囲100mが切り取られた大地が海原に沈みこむ。 遠くには荘厳なアンゼロット宮殿。空に浮かぶ巨大な地球。 「そうか、ここなら……!」 アンゼロットの意図に気付いた蓮司が叫んだ。 だが、カズキは勿論蓮司にもこの状況の本当の意味が理解できていない。 同時に上空から雷のような怒声が響いた。 「――退けっ、柊 蓮司! 武藤カズキ!!」 「!?」 弾かれるように見上げた空に、怒気を孕ませたベルがいる。 いや、孕ませているのは怒気だけではない。戦慄を感じさせるほどの膨大な魔力が彼女を中心に荒れ狂っている。 反射的に二人は地を蹴ってベリトから遠ざかった。 が、同時に直感的にそんな事に意味がない事も悟る。 ベルの放つ魔力はくれはが練り上げたスターフォールダウンの比ではない。 目標であるベリトは当然、距離を取った二人どころか転送された大地そのものを消滅させるほどの強大な攻性魔力。 形なき力が形を成す。 それは正に圧縮された太陽。 自分達に向けられていないにも関わらず、身体が灼け骨が溶けるような感触が叩きつけられる。 灼熱の光球は掲げられたベルの手によって更に変形する。 細く長く引き伸ばされたその太陽は指向性を持った核熱の大槍になる。 「――《ディヴァイン・コロナ・ザ・ランス》ッ!!」 ベルの手から極大の閃槍が投擲された。 あらゆるモノを浄化し気化させる天聖の力が一直線にベリトへと走る。 だが―― ベリトは自らを貫き灼き尽くさんとするその力に、まったく眼もくれなかった。 紅の双眸が見つめるのは極大の魔力ではなく。それを放つ裏界の魔王でもなく。 その向こう、遥か彼方に聳える荘厳な宮殿。 その中心に座する、『無限の魔力』。 「 !!!」 ベリトが咆哮した。 それはもう声とすら認識できない無形の圧力。 爆発するように溢れ出した暗黒が迫る閃槍を一瞬で呑み込み、その向こうにいる少女へと殺到した。 ベルは迫る闇に反射的に防御壁を展開し、そして瞬時に悟る。 驚愕する暇も声を上げる暇もなく、闇が防御壁ごとベール=ゼファーを押し潰した。 天を貫く黒い極光を、そして世界を侵食していく闇を、蓮司とカズキは呆然と見つめる事しかできなかった。 立ち竦む二人の前に空から何かが落ちてくる。 ソレは地面に激突し、まるで塵の様に幾度も地を転がってようやく停止した。 「……ベル?」 忘我のまま声を絞り出し、蓮司は地面に目を向ける。 彼女は言葉の代わりに、口から血を吐き出した。 いつも冷笑を称えているその唇が屈辱に歪み、立ち上がることすらおぼつかない。 一撃。 たったの一撃で、裏界においても五指に入るだろう力を持つ大魔王ベール=ゼファーを一蹴した。 「――無駄です」 その事態を理解する事さえもできずに立ち尽くす二人――そして屈辱に歯を噛むベルに、リオンの声が響いた。 「『守護者』の力を得た以上、もはや現身でしかない今の貴女では勝てません」 「守護者の力……」 世界の守護者たるアンゼロット。 神との契約によってその行使を禁じられているその力は無限とも言われている。 ベリトはエネルギードレインによってその無限の力を奪い取ったのだ。 世界総ての命どころの話ではない。 「そんな力を得たベリトを、制御できるとでも……!」 ベルが満身創痍の身体を引き摺るように立ち上がり、冷淡なリオンを睨みつける。 無限の力の直撃を喰らってなお生き延びる彼女の生命力は驚愕に値するが、既に立ち上がる事しかできないのは明白だった。 リオンはそんなベルを見つめたまま、唇をほんの僅かに歪めた。 「制御する必要などありません。何故なら、アレはすぐに消える事になりますから」 「……っ。ソレで世界を滅ぼすというならまだしも、そこまで走狗に成り果てるつもり……!」 ベルが嫌悪感も露にリオンを睨みつける。 しかし彼女は冷然とした表情を一切崩す事なく、静かに言葉を返した。 「私はあの方の忠実なる従僕。それ以上でも、それ以下でもありません」 「本当に忠誠を誓っているのなら、殊更に『忠実』なんて言葉は使わないものよ。モーリーのようにね」 「―――」 突き刺すようなベルの言葉にリオンの身体が小さく揺らいだ。 端整な眉を僅かに歪め、冷たい薄青の瞳の奥に感情の灯が灯る。 そこに畳み掛けるかのようなベルの声が飛んだ。 「あいつが望んだ時に望んだ知識を与えるだけ……そんな生き方、あんたが持ってるその書とどこが違うの、リオン!」 「……っ」 リオンは答えない。 だがそれは沈黙を保ったというよりは、答えに窮するといった方が正しい。 唇を噛み、手にした書物を握り締める。 彼女は小さく肩を震わせると、ゆっくりと手をベルへと伸ばした。 「――貴女は、うるさい」 手の平から魔力が膨れ上がり放たれる。 先のベリトの一撃からすればそれは取るに足らない威力のものであったが、今のベルにはそれを避ける余力すら残っていなかった。 「――っ」 放たれた闇の魔力がベルの身体を呆気なく貫く。 まるで糸が切れた人形のように、ベルは崩れ落ちた。 「ベル!」 「リオン……!」 蓮司とカズキが同時に身構える。 しかしそれに動いたのはリオンではなく、その眼下、胎動する闇の中にいる巨狼。 ベリトの紅の凶眼が鈍く光る。同時に闇の極光が走り抜けた。 反射的に蓮司とカズキは防御し――ようとして。 ――次に気付いた時には、闇に食い尽くされた空を見上げていた。 (なに、を――) されたのか全くわからない。 否、攻撃をされたのだ。 ただそれが二人の反応を圧倒的なまでに……攻撃を受けたことを認識できないほどに、超越していたというだけ。 状況の理解と同時に感覚がようやく追いついてくる。 思い出したかのように全身に痛みが湧き上がってきた。 超越しているのは速さだけではない。その威力もまた、耐えきれるようなレベルではない。 「が、ふ」 そう、レベルが違う。 強いとか弱いとかいうそういった比較の物差しではなく、存在としての桁が違う。 おそらくその気になっていれば、ベリトは二人を肉片一つ残らず消し飛ばす事もできただろう。 なのにまだ生き残っていられるのは―― 「……ようやく出てきましたね」 リオンの声に蓮司とカズキは軋みを上げている身体を必死に持ち上げた。 前方にいるリオンとベリト。 両者の間に立ち塞がるように、空間が傾ぐ。 「守護者の持つ無限の魔力を得たベリトを倒し得るのはただ一人。つまり――」 動けない三人を守る様に顕れた人影。 長い白銀の髪を揺らしてリオン達に立ち塞がる、一人の少女。 「――ようこそ、”真昼の月”アンゼロット。この舞台は貴女のために用意したのです」 「――始めから、手遅れだったという事ですね」 険しい表情でリオンを見据えながら、アンゼロットは静かに口を開いた。 リオンは何も語る事はせず、ただ小さく唇に笑みを作ってそれを肯定する。 ――そもそもの話、リオンやベリト達の操るホムンクルスが出現しだしたのは昨年の末。 対するにアンゼロット達ウィザードがこの地を訪れ動き出したのはその約一ヵ月後……つい最近だ。 目的がベリトのヴィクター化による世界総ての生命の収奪であったというなら、ウィザード達が動き出す前に総てが終わっている。 事実、その基幹となるカズキの持つ黒い核鉄の奪取は、過日のリオンの介入によっていとも容易く為されているのだ。 そして奪取からベリトのヴィクター化までの行程はほぼ数日で終わっている。 やろうと思えば年をまたぐ前に完遂してしまえたにも拘らず、ウィザード達が動き出すまでの一ヶ月間、リオン達は表立って行動する事がなかった。 それは何故か。 待っていたのだ。ウィザード達が動き出すのを。 ウィザードを率いる彼女を。 「アンゼロットを……?」 軋む身体を無理矢理に引き摺って立ち上がった蓮司が、呻くように疑問の息を漏らした。 確かに世界の守護者たるアンゼロットの力はこの世界の何物をも凌駕するだろう。 だが、契約に縛られる彼女はその力を使う事ができない。 だからこそ彼女はウィザード達を使ってこの世界を守護しているのだ。 「……頭が悪いですね、柊 蓮司」 無貌の秘密侯爵は嘲るでもなく、呆れるでもなく、ただ静かに事実だけを述べた。 「此度の一件においてウィザード達の動きが遅れたのは、偏に錬金戦団とウィザード達の確執によるもの――」 戦団のみならず、絶滅社、聖王庁、一条家、トリニティ、国土防衛隊、米国特殊部隊レイヴンロフト……数え上げれば暇がない。 エミュレイターに対する組織の垣根を越えた連合――『ウィザーズユニオン』などと称していたところで、その実態は己の利益と権威を優先する人間同士 の確執の集まりなのだ。 自らが薄氷の上に立っていることを理解していながら、共通の敵が存在していながら、なお相争いあう人間達。 それがかろうじて瓦解せずに済んでいるのは―― 「貴方は彼女を身勝手で理不尽な存在だと思っているでしょうが……その『身勝手で理不尽』なまでの統率がなければ、 そもそも人間達が結束する事などできはしないのです」 リオンの言葉を瞑目したまま聞いていたアンゼロットは何も答えない。 肯定も否定もしなかった。 そんな彼女を漆黒の瞳で見つめたリオンは、薄く微笑を浮かべて手にした書物を軽く撫でる。 「ここまでくればもはや他の運命が干渉する余地はありません。この書物に記された結末は唯一つ」 そしてリオンはまるでアンゼロットに道を譲るように身を引いた。 眼前に開かれた彼女の視界に映るのは、自らの力を喰らって守護者と同等の存在に成り果てた赤銅の巨狼。 「手を出さない、というのであればこのままファージアースに帰還させてもらいます。ご自由に処されてください、『世界の守護者』よ」 感情を込めず、しかし明らかにそれとわかる挑発にアンゼロットは小さな拳を握り締めた。 ベリトを倒し得るのは同じ無限の力を持つアンゼロットただ一人。 しかし、自ら手を下す事は力の使用を禁ずる神との契約に悖る行為でもある。 たとえ世界を守るための非常手段であったとしても、契約は例外を赦さない。 非常手段を行使するに至った時点で既に、守護者としての役割に不適格とみなされるからだ。 すなわち彼女に待っている結末は、ベリトと己の消滅だけ。 アンゼロットはその結末を理解しながら、しかし毅然としてゆっくりと歩を踏み出した。 「……アンゼロットッ!」 「アンゼロットさん!」 叫ぶ蓮司とカズキに、しかしアンゼロットは振り向かない。 毅然とベリトを見据えたまま、揺るぎのない声で銀髪の少女は断言した。 「わたくしは『世界の守護者』。世界を守るためであるならば、いかなる犠牲も厭いません。 それは――わたくし自身の命とて、例外ではないのです」 言って世界の守護者は、再び歩き出す。 一歩、また一歩と二人から遠ざかり――そして自らの滅びへと赴いていく。 蓮司は僅かに歯を食いしばり、僅かに顔を俯けた。 カズキは身を震わせて、サンライトハートを掴む拳に力を込めた。 「……アンゼロット。お前に……言いたい事がある」 蓮司が搾り出すような声を上げると、彼女は僅かに歩を緩めた。 彼を振り向かないまま、静かに眼を閉じて彼の言葉を待つ。 蓮司は僅かな沈黙の後――顔を上げて、力強くそれを言い放った。 「―――意外と頭が悪いんだな、アンゼロット……!」 「な、っ」 アンゼロットの顔が驚きに歪む。 別に彼に対して何か甘い言葉を期待していた訳ではない。 だが、ここでそのような暴言を吐かれるのは完全に彼女の想定外だった。 思わず振り向いてしまった彼女が眼にしたのは、言ってやったといわんばかりに不敵な笑みを浮かべる蓮司の姿だった。 「何度も何度も俺をいいようにこき使ってるくせに、まだ理解してなかったのか」 「ひ、柊さん……?」 悲鳴を上げる身体を無視して、蓮司はアンゼロットに向かって歩き出す。 それに続くようにカズキも、彼女に向かって歩を踏みしめる。 「俺は世界のためだからって犠牲を受け入れる事なんてしねえ。大のために小を殺すなんて事はしねえ。そいつはな――」 蓮司は呆然と立ち竦んでいるアンゼロットの目の前まで辿り着くと、力強く彼女の腕を取り、引き寄せた。 「――そいつは、お前の命だって例外じゃねえんだよ」 「……っ」 強張った少女の小さな身体を抱き止めると、蓮司は身体を入れ替えるようにしてアンゼロットを後ろに押しやった。 少し乱暴に押し出されたアンゼロットは僅かに身体をよろめかせ、そして我にかえって呻く。 「あ、あなた……!」 詰め寄ろうとしたアンゼロットを、差し伸ばしたカズキの腕が制した。 彼も蓮司と同じように、彼女を護る様にしてベリトに立ちはだかる。 「オレも蓮司と同じだよ。オレは、アンゼロットさんも含めて皆を守りたい。どんなに小さくても、犠牲を出すやり方なんて……そんなのは嫌だ」 「……っ」 アンゼロットは言葉を失って唇を噛む。 彼女は肩を震わせると、僅かな怒気を孕ませて目の前の二人に叫ぶ。 「アレはもう貴方達の手に負えるモノではありません! なのに――」 「それでもッ!!」 アンゼロットの声はカズキの一声に断ち切られる。 彼は手にした光槍を一閃して、ベリトを見据えたまま言葉を続ける。 「それでも、オレ達はここにいる! 何もできずにやられるのなら、仕方ないかもしれない! ……けど! 『何もしない』で諦める事は――できない!!」 カズキの叫びに蓮司は苦笑を閃かせると、彼と同じように魔剣を一閃させてアンゼロットに背を向ける。 「……そういうこった。諦めるなら、俺達がやられてからにしてくれ」 「貴方達……っ」 絶句するアンゼロットに、二人は話は終わりとばかりにベリトに向かって駆け出した。 そして無謀な抵抗が始まった。 動かないベリトに向かって魔剣を振るい、光槍を突きつける。 しかしそれらは微動だにしない巨狼に簡単に弾かれ、返す一撃で大きく吹き飛ばされる。 人形のように転がり、地面に叩きつけられる。 それでも二人は闘うことをやめなかった。 敵うはずがない、というのは誰よりもアンゼロット自身が理解している。 彼等もまた、それは理解しているはずだ。 なのに彼等はなお闘いを挑み続け――彼女はそれを止める事ができなかった。 噛み締めた唇から血が零れる。 止めなければならない、と心中で思いながら、それでも魅入られたように身体は動かない。 それは多分――きっと、見惚れているからだ。 何物にも屈する事のない信念。 どれほど傷付いても決して退かない鋼の意思。 どこまでも単純で、どこまでも愚直で……だからこそ、それは震えるほどに尊く美しい。 「……まあ、構いませんが」 どこか遠くで、冷めた声が響いた。 「最初期の『刷り込み』があるとはいえ、いつまで抑えられるかわかりません。彼等のためにも、決断は早くしておいた方が良いのではないですか?」 冷淡に言い放ったリオンの言葉に、アンゼロットは顔を俯けて胸に手を添えた。 リオンが言う通り――そしてアンゼロットが理解している通り、二人の抵抗で状況が動く事はもはやない。 世界にとって二人の力は得難いものだ。 彼等が力尽きる前に、決断せねばならない。 神との契約を破り、自らの手でベリトを討ち斃す。そうすれば二人の命と世界を救う事ができる。 それが世界の守護者としては当然の選択だった。 だが――それは同時に。 彼等二人の意思と、目の前の彼等の姿を裏切る行為。 白銀の髪を震わせて、少女は静かに拳を握り締める。 (御赦し下さい、我が神よ。わたくしは――) ―――勝てねえな、こりゃ。 蓮司は自分でも驚くほどにあっさりと状況を受け入れた。 おそらくは共に並び戦うカズキも同じ心境だろう。 防御を完全に捨てて、総ての力をただ斬撃に込める。 だが、渾身の力を振り絞ったその一撃も、受けるどころか避けようともしないベリトにかすり傷一つすら付ける事が叶わない。 ベリトが虫を払うように――実際その通りなのだろう――腕を一閃した。 身体が吹き飛び、遅れて全身を貫く衝撃が走り抜ける。そこでようやく二人は攻撃を喰らった事を認識した。 最大限に手加減した一撃ですら二人の知覚と防御を遥かに上回っている。 それはもう、闘いとも抵抗とも言えない代物だった。 激しく地面に叩きつけられ、なお収まらない衝撃に地を抉りながら転がる。 もう受身をとる余力さえも残っていない。 ようやく動きの止まった身体を持ち上げると同時、 「……ぶ」 口からばしゃりと血が零れた。どうやら肉体が限界にきたらしい。 痛みはもう全く感じない。そんなものは既に通り越えてしまった。 ただ気力だけでがらくたのような身体を引き起こす。 近くには自分と同じく満身創痍のカズキがいた。 身体中傷と血に塗れ、左手だけでサンライトハートを握っている。 右腕は力なくだらりと垂れ下がったままだった。 お互いにそんなボロボロの状態を見て取って……二人の間に何故か苦笑が零れた。 「……損な性分だよな、お互い」 吐血した口を拭いながらそんな事を言うと、カズキは僅かに眉根を寄せて首を傾げて見せる。 「そうかな? 考えたこともなかったけど」 「……すげえな、お前は」 本気で言っているだろうカズキをまじまじと眺めて蓮司は感嘆の声を上げた。 「蓮司は違うのか?」 「当たり前だ。面倒なのは嫌いだし、楽したいに決まってる」 けどよ。 蓮司は言いながら魔剣の柄を握り締めた。 力を込めたつもりだったが、実際そうできているのかすらも怪しい。 「なんでか知らねえが、俺が納得できるやり方はいっつも面倒な事になるんだよ」 「……はは」 「笑い事じゃねえって」 吐き捨てながらも、蓮司の口元は笑っていた。 そして二人は表情を引き締めて目の前のベリトを見据える。 魔剣の切っ先を、光槍の穂先を、敵に向けた。 「じゃ、行くか」 「おう」 これで最後の一撃になる事は、既に二人は理解している。 そして、それがベリトに対して何ら痛痒を与えるものではない事も、理解している。 だが二人に退く選択肢はあり得ない。 何故なら二人の後ろには、護るべきモノがある。 何故なら二人の裡には、決して折れないモノがある。 ――たとえ勝つことは叶わなくとも。 ――諦めて負けることだけは、二人にはできない。 蓮司はカズキと同時に地を駆ける。 振り上げて振り下ろす力さえ惜しいと切っ先はベリトに向けたまま。 残された力を総て振り絞り、自らの身体を弾丸に代えて、巨狼へと叩きつける。 真っ直ぐに伸ばされた魔剣の刃が――在りえない感触を蓮司の腕に伝えた。 肉を裂く感触。ヒトを貫く手応え。 掠れた視界に銀糸の髪がばらりと舞う。 手にした魔剣を突き出したその眼前。 白刃に貫かれた世界の守護者が、そこにいた。 「ア――?」 蓮司はその光景を理解できず、声を絞り出すことさえできなかった。 こふ、と少女の口から血が零れる。 魔剣に貫かれたアンゼロットが蓮司に倒れこみ、 「――ベリト!!」 リオンの叫ぶような声が轟いた。 初めて出された指示、そして初めて聞く焦燥を伴ったリオンの声に戸惑ったのか、ベリトの動きが明らかに鈍った。 状況を把握できないまでも、反射的に蓮司は崩れるアンゼロットを抱え込む。 アンゼロットの闖入に攻撃を停止せざるを得なかったカズキが、その二人を護るように覆いかぶさった。 一瞬遅れて狙いの逸れたベリトの豪腕が奔る。 総てを破砕するその一撃は三人を掠めるだけに留まったが、その衝撃だけで三人はもつれる様に大きく吹き飛ばされた。 二人はアンゼロットを抱え込んだまま地面を跳ね飛ばされる。 元より痛みは感じなくなっていた。二人にとってはむしろ突然現われたアンゼロットに対する驚愕の方が大きい。 「アンゼロット、お前……!?」 「………痛――」 咳き込むように血を吐き出して、アンゼロットは小さく呻いた。 蓮司の魔剣によって貫かれた黒い衣装は、彼女の血を吸って鈍色に染まっている。 「……わたくしに、こんな事をさせるなんて」 力なく囁くその声は僅かに非難の色を帯びていたが、何故か彼女の口元は苦笑が浮かんでいる。 そして彼女は自分を抱えている蓮司を押し退けて、ゆっくりと立ち上がった。 「アンゼロット……」 「大丈夫です。貴方ごときの力でどうこうなるほど、ヤワではありませんわ」 彼女の言うとおり、見れば既に魔剣に貫かれた傷は消えてなくなっている。 裂かれた衣装から覗く白い肌には、その痕さえも残っていなかった。 「なんなんだよ、一体……!」 訳がわからず蓮司は呻くように叫んだ。 すると彼女はふうと一つ溜息をつくと、 「……貴方達のせいですから。ちゃんと責任、取ってくださいね」 蓮司の問いには答えず、アンゼロットはいつも通りの微笑を浮かべた。 口調こそ平静を取り戻しているように見えるが、その顔色は尋常ではない。 白磁を思わせる肌は更に白味を帯びて蒼白になっていた。 「おいっ!」 問い詰めようとする蓮司を無視してアンゼロットはベリト――と、それを見下ろすように宙に浮かぶリオンに向き直った。 一々話している時間はなかった。 目の前に二人がいる、というのもそうだが――それ以上に、別の意味で時間がないはず。 彼女はリオンを見据えると、精一杯の余裕を見せてから口を開く。 「この展開は貴女の書物に載っていましたか、”秘密侯爵”?」 「………ッ」 アンゼロットの言葉に、リオンが眼に見えて表情を歪める。 自らの存在意義に等しい書物を強く握ると、リオンは努めて――装っている事がわかる表情で声を漏らした。 「……その程度のゆらぎで書に記された運命が覆る事など、ありません」 「――ゆらぎ?」 そんなリオンの言葉を、そんなリオンの態度を、アンゼロットは満足そうに見届けてから微笑む。 魔剣に貫かれた自らの胸に手を添え、身を以って思い知ったその事実を胸に、彼女は静かに口を開く。 「――『コレ』はそんな生易しいモノではありませんよ」 「……? 何を」 アンゼロットはリオンの呟きを無視して一歩を踏み出した。 浮かべていた微笑を収めて、目の前に佇む巨狼を翠の瞳で凛然と見据えた。 「わたくしは世界の守護者。世界を喰らう者に与える力など持ち合わせません」 狭間の世界に凛と声が響く。 彼女は胸に添えた手をゆっくりと広げた。 「わたくしが力を与えるべきは―――」 少女の動きと共に、その身体から清廉な魔力が溢れ出す。 留まる事を知らず高まっていくその力は圧倒的で、しかしそれでも不快感は微塵も感じさせない。 眼前のベリトが吐き出す闇色に対して彼女の放つ力は白色。 同じ力を礎にしながら対照的な無限の魔力。 本来そうあるべき、限りない力を――アンゼロットは力強く、解き放つ。 「―――世界を護る者達!!」 闇を払う光が迸った。 少女の身体から噴き出した膨大な力が、世界を照らし出すように輝き、後ろにいた蓮司とカズキへと収束していく。 「これは――!」 アンゼロットが齎した啓示の力が身体に降臨すると同時、二人は自らの変化に眼を見開く。 当に絞り尽くしたはずの力が湧き上がって来る。 否、それどころかこれまで得た事のない程の活力が身体から溢れ出している。 驚愕と共に蓮司達がアンゼロットに眼を向けると、彼女は二人に力を与えた代わりとでも言うように身体が傾ぎ、その場に膝を付いた。 「アンゼロットッ!」 地を蹴って駆け出す。 アンゼロットを支えようと手を伸ばすと、それを彼女は首を振って拒絶した。 彼女は顔を俯けたまま、苦笑に近い微笑を漏らして囁く。 掠れるような声で、しかしはっきりと信頼を込めた声で。 「……貴方達には、成すべき事があるはずですよ?」 「―――」 二人は彼女に伸ばしかけた手を止めて、拳を握った。 そして項垂れるアンゼロットの脇を言葉なく通り過ぎ、彼女に代わって前に立つ。 相対するベリトの圧力が緩んだのを感じて、アンゼロットは僅かに顔を上げた。 目の前には彼女を護るように立つ二人の少年。 魔剣を携え、光槍を携え、揺ぎ無く立つ二つの背中。 たったそれだけの壁が、世界を喰らう巨狼の圧力を防いでいる。 アンゼロットは僅かな羨望と共に眼を細め、小さく笑んだ。 「そのような事に力を使うなど……正気なのですか……!?」 呻くようなリオンの声が響いた。 彼女の動揺はある意味当然のものではある。 守護者の力の使用は自身の消滅を招く行為なのだ。 にも拘らずそれをベリトにはなく蓮司達に使うなど、あり得ない。 しかしアンゼロットは、浮かべた笑みを更に深めてリオンへ言う。 「正気とは言い難いですね。わたくしともあろうものがこんな馬鹿な賭けをしてしまうなんて」 だが、元よりその『力』の萌芽は見て取れていたのだ。 例えば星々の軌道を導き操る魔王ディングレイ。 例えば未来よりの因果に守護された魔神。 人智の及ばぬ『運命』を掌握するそれらを、討ち倒すことは叶わずとも揺らがせてきたその力。 己が身に刻まれた破戒の痛み―― 一時的とはいえ寸断された契約の喪失感に、しかしアンゼロットは愉快そうに口の端を歪めた。 「貴女の書に記されたその『運命(シナリオ)』、変更させていただきますわ」 そうしてアンゼロットは目の前の二人――自らの手で神との契約に傷を付けさせた、憎むべき二つの背中に語りかける。 「――ちゃんと、護って下さいね」 二人はベリトを見据えたまま振り返らない。 互いに手にした得物を力強く握り締める。 「――任せろ」 蓮司はゆっくりと拳をカズキに差し出した。 カズキも同じく、蓮司に向かって拳を差し出す。 「何を隠そう――」 二人の拳が、背後で見守る少女に見せ付けるように、重ねあわされた。 「「――――俺達は、世界を護る達人だっ!!」」 残光を引いて二つの身体が疾駆する。 迫り来る脅威を見て取ったか、ベリトが絶叫を上げて闇の力を迸らせる。 だが、巨狼が吸い尽くした力が無限ならば、守護者の加護を得たその光も無限。 限界を凌駕する闇が炸裂するその刹那に、限界を超越した光が到達する。 爆ぜるような火花を上げて魔剣が疾走する。 その刃を駆る魔剣使いが見るのは未来の軌跡。 眼前の闇を、眼前の敵が動く挙動を、ソレが取ろうとする動きをまるで心を読むように把握して一歩を踏み込む。 閃く刃光。魔剣が己の『力』を――己の主さえも知り得ぬソレを振るう相手に歓喜するように唸りを上げる。 ――秘密侯爵の持つ書を絶対の運命が記されたモノだと呼ぶならば。 ソレは絶対の運命を覆し切り伏せる改竄の刃。 神のごとき力と、その運命を宿すモノを断ち切る、相克の力。 故に秘匿されしその名を『神殺し』と呼ぶ。 たとえ死して転生し、夢見る神の使徒と成り果てたとしても、その少女が『神』であった事実は変わらない。 なれば巨狼が得た無限の力は正しく神の力。 それゆえに。 かつて世界と運命を敵に回した裏切りの刃は逃さない。 神を切り裂く。運命を断ち切る。 守護者の力を得たが故にその魔剣に相克する存在と成り果てたベリトに逃れる術はない。 巨狼の身体が爆ぜるように吹き飛ぶ。 大きく裂かれた傷口からまるで血風のように闇が噴き上がった。 その闇を迸る光が撃ち祓い、吹き飛ばす。 黎明の輝きを纏ったサンライトハートがベリトの胸に突き立てられた。 その閃光は強大ではあるがベリトの力を討ち貫くには到底及ばない。 受け止められる。 光が闇に呑まれていく。 渾身の力を振り絞るカズキに、しかし無慈悲にも絶対的な力の差がのしかかる。 彼の放つ閃光に食いつくようにベリトの闇が纏わり付いた。 サンライトハートがぎしぎしと悲鳴をあげ、表面に亀裂が入った。 そして闇に押し潰されるようにサンライトハートが――彼の命が、粉々に打ち砕かれた。 ついさっき、斗貴子が見せた物憂げな表情が脳裏を掠めた。 "――ただの個人的な感傷だ" 昨年の春、彼が斗貴子によって与えられた新しい命――黒い核鉄は平凡だった彼の人生を大きく狂わせた。 錬金術や武装錬金、闘いなどと全く縁のない日常で生きてきた彼を、非日常の世界へと誘ったモノ。 それによって降りかかった苦難や災いは想像を絶するものだった。 ――だが、それでも。 "確かに黒い核鉄は忌むべきモノだが、それでもアレは……" ――それでもアレは、オレと斗貴子と自分を繋いでくれた絆なんだ。 だから。 「だから―――!」 千々に砕かれ崩壊した己が命に見向きもせず、彼は手を伸ばした。 その視線の向かう先は、その腕を向ける先は、ベリトの胸部。 それはそこにあるべきものではない。 そこにあっていいものではない。 例え何があっても、例えそれが忌むべきものであっても。 ―――決して、この手は離さない。 「―――来い!! オレ達の武装錬金!!!」 咆哮が力となり、力が形と成る。 闇の中心を内から突き破り、伸ばした手の先に現われる白銀の槍。 少女との絆の証を少年は力強く握り締める。 瞬間、黎明の輝きが狭間の世界総てを覆い尽くした。 その閃光の中心、カズキの姿が変質する。 胸に刻まれる核鉄の刻印。 その肌は灼けつくような赤銅。 淡い燐光を放つ蛍火の髪。 世界の生命を吸い尽くす存在、ヴィクター。 しかしかつて忌むべきモノであったそれは、忌むべき力であったそれは、ただこの時において総ての命を束ねる力となる。 「世界の皆の生命、アンゼロットさんの力、全部――全部!! 返してもらうッ!!」 吹き上がる闇の悉くを吸い尽くし光と転化する。 カズキは手を翻して穂先をベリトに向けると、咆哮と共にそれを叩きつけた。 「エネルギー全開っっ!!!」 迸る閃光と噴き出した闇がせめぎあい、弾け合い、喰らい合う。 この瞬間においてカズキの得た力は無限。 しかし源を失えども、この瞬間までベリトが得た力もまた無限。 完全に拮抗した力のぶつかり合いが辿り着く先は、互いの消滅に他ならない。 その両者にたった一つ――そして決定的に異なる事があるとすれば。 「――力が足りねえのか」 ――少年は一人ではない。 「だったら――コイツも持っていけ!!」 カズキの握り締めるサンライトハートの柄を、蓮司が片の手で握り締めた。 空いたもう片方の手に握る魔剣を、迸る閃光に叩きつける。 魔剣にはめられた真紅の宝玉が輝きを増す。 そして蓮司は、咆哮と共にその力を解き放った。 「――――魔器解放っ!!」 閃光が鮮紅(センコウ)へと変わる。 夜闇を討ち払う黎明の輝きが夜闇を灼き尽くす紅蓮の焔となって迸り、紅い月に染め上げられたその世界をなお紅く熱く染め上げる。 その圧倒的な光景に、駆け抜ける熱風に、見守る少女は身体を大きく震わせた。 それは何物にも屈する事のない。 何物にも消される事のない。 二人の戦士の意思を具現したかのような熱い衝動。 その身も、その心も、その魂さえも震わせる、燃え滾るような―――真っ赤なひかり。 「「貫けえええぇぇぇぇっっ!!!」」 迸る咆哮と共に満ちた鮮紅が、 ただ一つの欠片も残さず総ての闇を灼き尽くした。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/214.html
「来いよ、銀之介え!」 オオカミが笑うと同時にオオカミから瘴気があふれ出す。 それはオオカミの動きを蝕み鈍らせる代わりに強い破壊力を与える。 「今度こそ、ぶち殺してやるぜ!」 黒い瘴気をまといながら、オオカミが吠えた! 「お願いだ。僕の中の狼…」 銀之介はゆっくりと目を閉じる。 瞳に映るのは、明るく黄色い、丸い月。 もう、恐れない。狼は飼いならせるって気づいたから。 「僕に力を貸してくれ…」 銀之介の銀の毛皮が艶を増す。そして、引きしまる。より、戦いに特化した姿へと。 「今度は僕が終わらせなきゃならないんだ…」 ゆっくりと開く、その瞳はいつもの優しい瞳では無い。 「こんな悲しいのは、もうたくさんなんだ!」 野生の獣性と狩人の理性。その2つを併せ持った瞳で。 銀之介もまた、吠えた! 「ククク…今度こそ息の根を止めてやるぞ。赤毛の悪魔…」 アラキの魔力が増大する。空に輝く紅き月が魔力を分け与えているのだ。だが。 「ふん。それはアンタの専売特許じゃないわ」 不敵に笑うサフィーの魔力も同じように増大する。 「なんだと…?」 「アタシが気付かないとでも思ったの?」 そう、空に輝く紅い月が加護を与えるのはエミュレイターだけじゃない。 「常識から外れた存在って意味じゃあ…ウィザードもエミュレイターも大して変わらない」 紅き月は等しく、加護を与える。 「アンタにできること、アタシに出来ないとは限らないって思わない?」 自らを糧とするものに等しく加護を。 「だって、アタシもアンタも…もとはこの世界の吸血鬼だったんだもの」 その小さな牙をさらすように。 サフィーが歯をむき出して、笑った。 「…一気に行くよ」 いのりが自らの相棒にプラーナを注ぎ込む。 いのりには分かっていた。長引かせれば、こっちが不利だ。 いのりはちらりとそちらを見る。今なおへたり込んでこちらをみている、自らの友を。 「ファイアーワークス…」 だったら… 「全力で焼き滅ぼせええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」 速効でブッ倒すしかない! 「銀之介君は、オオカミを、いのり君はアラキを抑えてくれ!」 的確に指示を出しながら、静は準備を始める。 「サフィーちゃんは僕と一緒に!」 移動しながら、体内でゆっくり練り上げる。 「頼む。時間を稼いでくれ!」 静は、魔術師だ。魔法を扱う専門のクラス。 全力で魔法を発動させれば。 「僕が魔法を完成させる時間を!」 その威力は、吸血鬼にだって負けないのだ! 「ぶっ壊れろ!銀之介ええええええええ!!!!!!!!!!!」 オオカミが振りかぶり、突っ込んできた銀之介に向かって、振り下ろす。 瘴気をまとった一撃。喰らえばただでは済まない。だが。 「なんだと!?」 それを銀之介はかわしてみせる。 「僕は…」 かわしきった銀之介はそのまま、オオカミに向かって蹴りを放つ。 「負けるわけにはいかない!」 その一撃は今までで最高のスピードで、オオカミを的確にとらえた! 「がふぁ!?」 内臓にまで達する一撃に、オオカミが血へどを吐く。早く、重いその一撃をオオカミの目は捉えられなかった。 「ちきしょう…てめえいつの間にそんな技を…」 オオカミが悔しそうに呟く。 それは、生まれついての狼であったが故に、狼であることに固執した男には決して到達できない領域。 狼であることを受け入れてなお人として生きる道を選び、その力を飼いならしたとき。 そうなったとき、彼らは変貌する。人も獣も超えた存在へと。 今の銀之介は、ただの狼では無い。 狼であることを超えた…人間なのだ。 「赤毛の悪魔に、死を!《ヴォーテクスランス》!」 アラキの魔法。槍のように尖った魔法がサフィーへと放たれる。だが! 「サフィーちゃん!危ない!《プリズムアップ》!」 「なめんじゃないわよ!こっちが、何の準備もなしだと思うな!《ダークバリア》!」 魔法の鎧と闇の盾。2つの防御魔法がその力の大半を奪う。 「…っつう!?よくもやったわね!」 それでも漆黒の槍はサフィーにわずかに傷を負わせる。だが、その程度では、サフィーは止まらない! サフィーの脳が灼熱する。不可視の力のとっておきが爆発寸前の爆弾のように膨れ上がる。 「まとめて…ふっとべええええええええええええええええええ!!!!!!!!」 それを開放し、まとめて吹っ飛ばす! 「ぐがあ!?」 既に銀之介に手傷を負わせられていたオオカミが突然の追いうちに悲鳴を上げる。 「くっ!?《ダークバリア》!」 アラキの方は予想していたのだろう。サフィーと同じ、闇の盾で持って不可視の力を軽減する。 だが、それはサフィーの狙い通り。 アラキがサフィーの魔法に気を取られる瞬間、それを待っていた。 「今よ!いのり!」 この戦いの場にあってなお、サフィーは冷静だった。 「行くよファイアーワークス…思いっきりぶん殴っちゃえ!」 ファイアーワークスの丸太のように太い腕から放たれる一撃が、アラキをとらえる。 「ぐおぉ!?」 メキメキと、背骨のへし折れる音が響く。強力な再生能力を誇る吸血鬼にとっても大きなダメージだ。 「忘れんじゃないわよ。アタシらは…4人いる!全員で、あんたらをぶっ倒しに来てんのよ!」 そう、彼らは既に仲間であり、パーティーだ。4人の力を合わせたそのとき…彼らは一気に強くなる! 「ちぃ…こっちがやられっぱなしと思うなよ!」 オオカミが吠え、再び銀之介へと攻撃を仕掛ける。 ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!! 攻撃の瞬間、吠え声を上げる。威嚇のための魔獣の咆哮。 それは、銀之介の動きを止め、銀之介をとらえる。 「死ねや、銀之介え!」 自らの生命力すら瘴気へと変え、ありったけを銀之介にぶち込む! 「っく!?」 攻撃を避けられないと直感した銀之介が防御姿勢からとっさに攻撃を繰り出す。 パッと。 同時に鮮血が舞った。 「ククク…残念だが…強いな…」 わずかな時間で大きな傷を負わされて、アラキは苦笑する。 目の前の連中は、強い。守り手の分まで攻撃に回しているのは、伊達じゃない。 「いいだろう。私も、命をかけてやる…」 詠唱。だが、今度はただの魔法じゃあない。 「今度こそ、葬り去ってくれる!《ヴォーテクスランス》!」 「またそれ!?そいつはアタシには…っくう!?」 2重に張られた防御魔法。それすらも貫通し、アラキの魔法はサフィーへと到達する。 「どうだ…?私は…貴様らを撲滅するためならなんだって…ごふっ!?」 アラキもまた血を吐く。 落し子である2体は、その技を共に持っている。 自らの生命力をも瘴気に変える荒技、《リバースストライク》 自らの命をも削る、捨て身の荒技である。 形成は5分と5分。このままでは、サフィーかアラキ、そして銀之介かオオカミのどちらかが力尽きる。 そしてその可能性は…体力に劣るエミュレイターでは無い2人の方が高い。 「シズク!魔法、まだなの!?」 痛みと呪いに顔を歪めながら、サフィーが静に問う。 「御免!急いでるんだけど…もう少しかかる!」 焦りながらも、静はサフィーに返した。 威力と詠唱の長さは比例する。強力な魔法には時間がかかるのだ。 「…分かったわ。もう少しね?」 「ああ、もう少しだ」 サフィーの念押しに、静が頷く。 「させん…今度はまとめて葬り去ってくれる!」 いのりの再びの攻撃を喰らい、ボロボロになってなお、アラキの狂気は止まらない。 今度の詠唱は…《ヴォーテクストライデント》 アラキは、銀之介以外の3人を同時に葬り去ろうとしていた。 「試してみるか?赤毛の悪魔。もっとも、お前の魔法では、私を止められはせんがな!」 魔法への抵抗力の高いアラキが嘲笑する。サフィーの全力の《ヴォーティカルカノン》を持ってしても、アラキは止まらない。 そのことを、サフィーは理解し…笑う。 「言ったでしょう?こっちが、何の準備もなしだって思うなって!」 サフィーは不敵な笑みのまま、それを使うことを決意した。 「行くわよ!」 月衣からそれを取り出し、投げつける。 実のところ、それは賭けだった。成功するかも分からない賭け。だが、それでもサフィーは信じる。 500年間、ピンチから何度も自分を救った、自らの強運を! 「…《ヴォーティカルカノン》!」 「ククク…結局それか!芸が無いな!《ダークバリ…ぐふぁ!?」 サフィーの《ヴォーティカルカノン》がアラキの頭上にたっしたそれを正確に貫くと同時に。 アラキが身を丸め、口元を押さえる。立っていられない。 こらえきれないほどの吐き気が襲う。油断していたため、アラキはもろにその被害を受けていた。 「ぎ、ぎざまあ…」 アラキがうめく。鼻をつまんだまま。まさかこんな隠し技にやられるとは思っていなかった。 確認するのも馬鹿らしかったので、すっぱり忘れていた。その結果が、これ。 アラキは一瞬にして行動不能へと追い込まれた。 「一番最初に、言ったわよね?」 賭けはサフィーの勝ちだった。できれば使いたくなかった、不確定な切り札。 そんなことを微塵も感じさせない口調で、楽しげにサフィーは言う。 「アタシらは…もとは“この世界の”吸血鬼だって」 シリアスな場面。だが、それを微妙にぶち壊しているものが辺りに漂っている。 「気づいたのはついさっき。ウィザードになったからって吸血鬼の特徴と弱点が完全になくなったわけじゃない。 だったらそれは…エミュレイターでも変わらないんじゃないかって思ったの」 それは、匂い。 アラキの周りには先ほどまでビニール袋の中に真空パックで入っていたそれが散乱している。 「100年単位の色々に愛と感謝を込めて、アタシからのプレゼント。気に行ってもらえたかしら?」 最大級の皮肉をこめて、サフィーが笑う。 それは田舎のお土産の定番。長野県、飯波市で育った大根を使った、こだわりの逸品。 「これって…」 アラキの近くにいたいのりがちょっぴりぼ~ぜんとして呟く。彼女もその被害を受けてはいたが、特に問題は無い。服がちょっぴりばっちくなっただけだ。 大好きってわけじゃないけど、嫌いでもない匂い。ってか、冷蔵庫の中に普通に入ってるし。だってそれは和食の定番。 「たくわん?」 黄色い大根だったのだから。 「アラキの野郎何やってやがんだ!?」 突然悶絶しだしたアラキに毒づきながら、オオカミが構える。 オオカミの人間の数万倍はある嗅覚は正確にそれがなんであるかを嗅ぎとっていた。 だから余計に理解できなかった。なんでアラキがあそこまで悶絶しているのかを。 「しかたねえ!まずはてめえだけでも仕留めるぜ!銀之介えええええ!!!!!!!!」 もはや余裕は無い。オオカミは持てるすべての力を使い、目の前の狼を狩ることを決意する。 「くぅ…こうなったら!」 銀之介は迎撃の態勢をとった。一か八か、やってみるしか無い! 「死ねや…ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」 咆哮と共に突っ込んで来たオオカミに再び身がすくむ。 「くっ…ダメか…」 動けない。これでは…無理だ。 こうなったら耐えるしか無いと、銀之介が身を固くした、その瞬間だった。 カッ! 銀之介のポケットが一瞬光る。その瞬間。 「動ける!?これなら…」 すくんでいた身が嘘のように軽くなる。 「いける!」 銀之介が目の前のオオカミを見据え、紙一重で攻撃をかわす。そして… ザシュッ! 銀之介の爪が返す刀でオオカミの腹を切り裂く。 「ぐおお!?なんでアレがかわせる!?」 理解できない事態にオオカミが混乱の声を上げた。 一方その頃。 銀之介のポケットの中では今回の役目を終えた幸福の宝石が輝きを失っていた。 「シズク!後は任せたわ!」 「静さん!後は頼む!」 サフィーと銀之介の声が同時に静にかけられる。 「ああ、任せてくれ!」 静が力強く頷き、ついに魔法を完成させる。 「マユリさん…ありがたく使わせてもらいます」 サフィーや銀之介の色々を用意してもらうときに、静はそれを取り寄せていた。 ヴァンスタイン家が保有する魔法の中でも最高クラスに位置するもの。広範囲殲滅用の、高レベル魔法。 「…《ジャッジメントレイ》!」 《グレートスペル》、《ドロウルーン》、《マジックコントロール》…静の知る限りの魔術師の秘儀を詰め込んだ、静の最大の魔法。 天から降り注ぐ光の雨が、オオカミとアラキを焼いて行く。近くにいる銀之介やいのりを正確に避けて。 やがて光の雨がやんだとき。 そこには完全に致命傷を負った2体のエミュレイターの姿があった。 「勝った…だけど、やっぱりまだ終わらない、か…」 空と穴を見て、静が呟く。まだ月匣は崩れていない。 「ククク…そのとおり、先ほど言っただろう?」 致命傷を負い、崩壊が始まってなお、アラキは笑う。 敗北と滅び。今度は蘇ることは無いだろう。だがそれでも良い。 自らが主と認めた魔王は、いまだ無傷のまま。必ずこいつらと吸血鬼を滅ぼすだろう。 「私とあの男…そして…我が主が全力で貴様らを排除する、と…」 「魔王…」 アラキの言葉にサフィーが呟く。そうだった。まだ一番手ごわいのが残っている。 「その通り…そして、我が主もどうやら…準備を終えたようだ…な…」 そう、アラキが呟いた瞬間。 再び天から光の雨が降り注ぐ。今度はその場にいる全員を焼きつくすように。 …たった1人をのぞいて。 アラキとオオカミは焼きつくされ、黒こげの灰と化した。 「くぅ…みんな、大丈夫!?」 焼きつくされ、かなりの重傷を負いながら、サフィーが傷を再生しながら全員に確認する。危なかった。 とっさに《ダークバリア》を張らなければ、死んでいたかも知れない。 「僕は何とか…今のは一体…?」 持ち前の超体力で生き延びた銀之介が辺りの様子を窺うように辺りを見回す。 「ジャッジメント…レイ…まさか」 《プリズムアップ》で持ちこたえた、魔法に詳しい静が、何かに気づく。 ジャッジメントレイの射程はさほど長くない。そうそれこそ…この屋上のどこかにいないと、届かないはずだ。 「…!春美ちゃん!春美ちゃんは!?」 ファイアーワークスの《シールドフォーム》で比較的軽傷のいのりがバッと屋上の扉の方を見る。 友達の安否を確認するために。だが… 「いやあここでの戦いで安定を保つように穴を補強するのにちょっぴり時間がかかっちゃいました」 そこには、にこやかに笑う1人の少女が立っていただけだった。 「それにしても、ウィザードって案外丈夫なんですねえ…うちの魔法で、1人も倒せないなんて。あ、でも駒犬先輩はウィザードじゃあないんでしたね」 いつもと変わらぬ、いやむしろちょっぴりテンションの上がった、ぐるぐるメガネのその少女。 「ま、いいです。どのみち最後の決着は、うちがつけるつもりでしたし」 三石春美は、どこか楽しげに宣言した。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/night2ndandante/pages/170.html
アンジェリカ・ヴァン・クロムウェル 攻撃も防御も支援もこなす万能鬼畜アラサー 長所 短所 一人でやれることが多い 攻撃の射程が短い ほっといても中々死なない リソース管理がきつめ 回避・抵抗も高め 若干器用貧乏 クラスデータ ウィザードクラス 異能者 デュアルクラス シーラー タイプ 万能タイプ 第一サブクラス 侍 第二サブクラス 魔術師 第三サブクラス - ステータス 耐久力 B 魔法力 B 打点 B 防御力・魔法防御力 A 回避能力 B- 行動値 A 基本コンセプト・戦術 《ネイティブギフト》で強化された魔法による支援や、《魔力励起》《サイコブレード》《サイコブースト》による火力強化、《レンジドカバー》《ワイドカバー》などの味方の護衛、《グレートスペル》&《圧縮文言》による火力・治癒力の強化と、隙のない戦いを展開することができる。 安定して高い打点を出すことができ、切り札として《ファイナルスペル》も備えている。 防御力も高く、《レイズアーマー》《ナノリジェネフレーム》《ヒールサクセション》《ペインレスセイバー》による自己再生も備えており、《イモータル》《不死身の守護神》もあって生存能力はかなり高い。 欠点・弱点 ペインレスセイバーとサイコブレードの射程の関係上、どうしても前に出ざるを得ない。前衛キャラと一緒に突撃すれば、そのキャラを守りつつ攻撃・支援ができるが後方に置いてきたキャラはレンジドカバーでかばう必要が出てくる。プラーナ、HP、MPを大量に消費するスキルが多く、特にMP、プラーナはきちんと管理していないと息切れする可能性がある。 万能だが火力も支援能力もそこまで突出しているわけではないので、そこを味方に補って欲しいかも。 今後の成長方針 侍のスキルによる火力の底上げ、魔術師の小技、魔剣使いの基本性能の向上の他、キャスター系スキルによる魔法周りの強化など、器用万能になるための道は遠い。異能者、ディフェンダー系のスキルはそれなりに取ったので、そちらは後回し。 侍、魔剣使いのスキルを本格的に使うにはどちらもEX月衣が必要なため、経験点がカツカツになりそう。
https://w.atwiki.jp/soulknightatwiki/pages/21.html
入手法 3000ジェムで購入 ステータス(最大強化時) ライフ 4 アーマー 6 エネルギー 260 クリティカル 0% パッシブスキル 敵を倒したとき、エネルギーを2回収する。 個別スキル ライトニングストライク(ファースト) 入手法 最初から所持 待機時間 約5秒 持続時間 一瞬 効果 感電する電撃を放ち当たった敵を数秒止める。 強化時の効果 電撃のダメージが増加する。 導士による強化 だれか書いて~ ビアシングフロスト(セカンド) 入手法 250円で購入 待機時間 約4秒 持続時間 一瞬 効果 前方3方向に敵を凍らせる中距離攻撃を打つ。 強化時の効果 氷柱の数が増える。 導士による強化 だれか書いて~ ファイアストーム(サード) 入手法 6000ジェムで購入 待機時間 約4秒 持続時間 約5秒(6段階チャージ可能) 効果 周囲を回る火の玉を出す。 強化時の効果 敵がやけどダメージを受けやすくなる。 導士による強化 誰か書いてー コスチューム ダークレディ 2000ジェム 図書員 5000ジェム 見習い魔法使い 2000ジェム ウィッチ 370円 旧正月 250円 グランドウィザード‐ボスの遺産‐ デザインテーブル 魂を狩るもの 330円 聖なるエーテル教皇 小魚を使って購入 夜 8000ジェム 九尾の狐 370円 赤ずきんちゃん 8000ジェム 名前書いて~ 仲間のために という実績の攻略
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/480.html
パラダイスロスト異聞/01 かつて人類と呼ばれる種族より、生まれ落ちた異形の者があった。 蒼き星、地球を何時しか人類に代わって支配し始めた怪人たち――人類の進化形“オルフェノク”。 灰色の象牙、もしくは白骨のような外骨格、そして動植物を模った意匠を持つ怪人たちは、 超常の力たる異能と怪物的身体能力、そして同族を増やす“使徒再生”を武器に、着実に数を増やしていた。 超巨大複合企業スマートブレイン社によって統治される新世界は、静かに人間社会を侵食し――気づいたときにはすべてが手遅れだった。 人類の大多数がオルフェノク化してから早数年。数千人の生き残りが刈り尽くされるのも時間の問題となった、そんなときのことだ。 オルフェノクたちの催した公開処刑の場にただ一人現れ、究極の力=二つの“帝王のベルト”を装着したオルフェノクを倒したヒーロー。 結果としてスマートブレインの権威を失墜させた生ける伝説は、六年経った今でも群衆に語り継がれる。 自身もオルフェノクでありながら、ただ一人の少女を守るために戦った男の名は―― 《――乾巧(いぬい・たくみ)! 君は包囲されている、大人しく投降したまえ》 オリジナルのオルフェノクたる君を、我が社は手厚く歓迎する、などと続く声。 スマートブレイン社の尖兵、量産型ライダーズギア装着者たち――当然、全員がオルフェノクだ――の拡声器が、 喧しく青年の耳を打った。廃墟が続く街中でやり過ごしていたつもりだったが、どうやら寝過ごしたらしい。 割れた窓硝子から差し込むサーチライトの光から察するに、完璧な包囲網が出来上がっていると考えるべきだろう。 護るべきものはもう居ない。六年間の逃走劇の間に失ったもの――暖かい人々の笑顔、或いは守ると誓ったヒトのユメ。 既に地球上から人類という種族は絶滅寸前の状態であり、巧の知人たちは激しい戦いの中で皆逝った。 スマートブレインの支配体制に抗う一部のオルフェノクによって少数の人類は保護されているが、 それがどうしたというのだろう。夢も希望もない絶望に満ちた深淵が、この世界だった。 ――ああ、それでも。 戦う意味はある。 乾巧が存在する意味。 ――“誰かの夢を守ること”。 自分が存在することが、奴らへの反抗ならば。 《五秒以内に投降しない場合、建物ごと砲撃する!》 「早すぎだろ……やばいな」 変身装置――ファイズギア一式を入れたケースを左手で引っ掴むと、“変化”を念じた。 瞳が灰色に変わり、灰色狼の貌が浮かび上がる。同時に身体の像が歪み、人にあらざるシルエットを形作る。 オルフェノクの力とは、つまるところ個人の存在を創り変える能力に他ならない。 自己の精神的な“象徴”を具現化させる異能は、言わば人類という種そのものの進化と言って過言ではないのだ。 オルフェノクは多くの場合、“常識”はずれな身体能力と異能を持ち、無から有を生み出すことさえやってのける。 乾巧のオルフェノクとしての姿は――異形の刃の塊。五秒が経つと同時に、スマートブレインSP部隊の指揮官は、容赦なく命令の実行を命じた。 「撃て」 《了解》 量産型ライダーズギア『ライオトルーパー』が跨るのは、可変型バリアブルビークル『サイドバッシャー』三台。 それらはサイドカー然としていた形態から変形、大型二足歩行型戦闘メカへと変わる。黒鉄の重装甲ビークルはバイクと言うよりロボットと言うべき姿になり、 左腕と右腕の六連装ミサイル砲/四連装バルカン砲から砲撃を吐き出す。共に従来兵器の比ではない威力――フォトンブラッドを利用した新世代兵器である。 三台のサイドバッシャーからの砲撃は凄まじく、乾巧が立て籠もっていた廃墟の病院は、跡形もなく消し飛んだ。 ズズズ、と瓦礫と土煙が舞い上がる中、ライオトルーパー部隊の指揮官は溜息をついた。 「まったく、上にも困ったもんだ。たかだか反乱分子一人にサイドバッシャー三台とは……」 可変型バリアブルビークル『サイドバッシャー』の価格は、ライオトルーパー部隊に通常配備されている汎用バイク『ジャイロアタッカー』の約百倍である。 感覚としては歩兵部隊に突如として最新鋭の戦闘ヘリか戦車が配備されたようなものだ。 その火力に至っては途方もなく、大型ビルディングを跡形もなく粉砕できる。 上からは監視役の上級オルフェノクが来ているし、肩が凝ることこの上ない。 「さて、そろそろ撤収準備をしますか」 SP部隊指揮官――バットオルフェノクは、部下たちに撤収を命じようと視線を廃墟跡地に向け、 紅い、紅い鮮血を見た。宙を舞う小さなスイカほどのものが、部下のライオトルーパーの頭部なのだと確信。 継いで青い炎が上がり、それが燃え尽きる。 「なにぃ!?」 白刃/白刃/白刃――刃の鎧を纏う白銀の人狼。 月下に光る銀の刃を体中から生やし、白い毛並みを曝した乾巧=ウルフオルフェノクがそこにいた。 そいつは首を失ったライオトルーパーの身体を捨て去ると、操縦席に跨り瞬く間にサイドバッシャーを掌握した。 仲間の方へ向き直ったそれは、乾巧の命じるままに火器管制を解除、 呆然としている残り二台のサイドバッシャーへ向け、フォトンバルカンとミサイルが迸る。 機械の人工知能がそれに対処しようと飛び跳ねるが、有人操縦の滑らかな先読み射撃には敵わず、相次いで被弾/沈黙。 バットオルフェノクが超音波視覚を効かせると、そこには脚部を破壊されて無惨に横たわるサイドバッシャーが転がっていた。 「A01、03、応答しろ!」 《たいちょ……ギャッ!》 《た、弾が当たらな……!》 また赤い血が迸り、夜目にはっきりとわかる青い炎を噴き出すライオトルーパー二名。 “それ”は異常な速さだった。乾巧が狼種のオルフェノク――ウルフオルフェノクなのだとは聞いていたが、まさか戦闘ヘリ並みの速度で動き、 ライダーズギア装着者たるライオトルーパーを瞬く間に殺害できる戦闘能力があるなどと、誰が思うだろう? これには情報の誤りがあった。SP部隊の指揮官が知るスペックはあくまで通常形態の話であり、 今のウルフオルフェノク“疾走態”の情報などスマートブレインも把握していなかったのだ。 亜音速の加速で縦横無尽に動き回り、ウルフオルフェノクは敵陣の様子を把握し終え――指揮官がいる場所を突き止めた。 ライオトルーパー部隊のアクセレイガンから放たれる光弾を避けながら、跳躍――まるで月下に踊るように指揮官へ飛び掛かる。 『そこか……!』 『ちっ』 変化――バットオルフェノクとしての姿を取った指揮官が、口から超音波を吐き出す。 蝙蝠種の超感覚、超音波による波動を増幅した、外皮を切り裂く強力なメスと云えるそれの前に、ウルフオルフェノクの前面装甲に傷がつく。 だがそれだけ、殺しきることは叶わず、思わず驚愕に化け物は鳴いた。 『馬鹿な!?』 シュッ、と右の拳が突き出され、灰色の蝙蝠男、その顔面をぶち抜いた。 頭部に深々とめり込むそれはメリケンサックである。 打撃力の底上げをする兇器により、バットオルフェノクの表皮は粉砕されていた。 血の泡を吐き出して苦しむ蝙蝠男に止めを刺そうとした瞬間。 「流石に強いね、乾巧。君なら僕の相手が出来そうだ」 数発の光弾が、バットオルフェノクごと巧に襲いかかった。 咄嗟に横方向へステップしたのが幸いし、ウルフオルフェノクは傷一つ負わなかったが、 その一撃一撃が凄まじい威力を誇っていたことは、一瞬で灰化した蝙蝠男や穿たれたアスファルトが証明している。 しかし、仲間のオルフェノクを躊躇いもせずに殺すとは――巧の勘は、目の前の敵が紛れもなく“ヤバイ”と告げていた。 『お前は……』 「空席に補充された新たなラッキークローバー、百瀬。乾巧、君のファンさ」 そう言いはなった少年は、慇懃無礼に笑うと瞳を灰色に染め――“変化”する。 本能的に危険を感じた巧が飛び掛かり、右回し蹴りを見舞うと同時、金属的な反響音。 遅かったか――素早く飛び退くと、百瀬だった獣人が醜悪に笑った。 そいつは虎の意匠を持っていた。虎の頭部、猛獣の前脚と呼ぶに相応しい爪が生えた手甲。 すなわち。 『――変身中は攻撃しちゃダメだろ? わかってないなあ』 タイガーオルフェノク。 後天的に付与された“王の因子”を持つ、人造のオルフェノクだった。 尤もそんなことは巧が知るわけもなく、ただ相手の放つ雰囲気から“ヤバさ”を察知しただけだ。 ――こいつは強い。 オオカミという獣の本能は、虎に一対一で勝てるはずがないと囁く。 その本能を振り払い、腰に巻き付けていたケースからファイズフォンを取り出し、コード入力【106】。 タイガーオルフェノクが楽しげに笑う。 『そうそう、早くファイズに変身しなよ。待ってあげるから――』 【Burst Mode】 光線銃に変形した携帯電話型トランスジェネレーターより放たれる、紅いフォトンブラッドの連続射撃。 断続的なエネルギー掃射の前に、タイガーオルフェノクの身体が傷つけられていく。 『うぉ、ぐおおおお!?』 その間に巧へ走り寄るのは、一台の自律型可変バリアブルビークル『オートバジン』。 ライオトルーパーたちの崩れかかった包囲網を突破し、ウルフオルフェノクの下へ駆けつけるそれは、 巧が先日スマートブレインから拝借したものだ。バイク形態のオートバジンに飛び乗ると、巧は変化を解除し、 汎用バリアブルビークルで瓦礫の転がる街中を駆け抜けた。背後では百瀬が咆哮しているが、これならば何とか逃げ切れるだろう。 あいちこちから飛んでくる光弾を左右にジグザグ走行して避けつつ、彼は漸く小さな笑みを零した。 耳障りな女の声が聞こえたのは、そのときだった。通信機から全周波数で垂れ流される放送。 《は~い、乾巧さ~ん、お元気ですか~?》 「ちっ」 スマートレディ。スマートブレイン社の得体の知れないキャンペーンガールであり、この女が何か喋る=人類の不幸という構図が出来上がるような、 とにかく質の悪い女だ。思わず巧が顔を顰めたのも無理はないだろう――何時だって道化のように茶化す、化け物じみた怪人なのだから。 通信装置を切りたい衝動に襲われるが、今は運転に集中しなければ転倒してしまう悪路だ。 だから、彼は黙ってそれを聞き続けた。 《今日は~お姉さんから大事なお知らせがあって放送していま~す! 最後まで聞いてくださいね~? 我がスマートブレイン社は先日、とってもすごい“次元超越機”という機械を開発したんでーす》 何でもそれは平行世界(パラレル・ワールド)……つまり“よく似ているが違う世界”とこの地球を繋げるものなのだという。 そのプロジェクトの名は『楽園計画』。人口――オルフェノクの数が爆発的に増えているにもかかわらず、この惑星の大地は死んでいる。 すべては人類とオルフェノクの『二十四時間戦争』で放たれた核兵器や生物・化学兵器の汚染の所為である。 その汚染は大地を広範囲に蝕み、肥沃なユーラシア大陸の大半を居住に適さぬ地獄へ変えた。 当初は火星や月への移住も考えられたが、住めるかどうかわからない上にコストも時間も掛かりすぎた。 それよりも確実なシステムとして開発されたのが、異層空間移動システムであり、平行世界への移民計画だった。 今のスマートブレインの武力ならば、さほど手間を掛けずに異世界を制圧できるハズなのだから。 《ところがですね~、この次元超越機、生きた人間を放り込んだことがないんです~。 もうおわかりですよね~、反逆者にして第一級テロリスト、乾巧さんは生きたまま次元を超えられるかの実験体なんで~す!》 「ふざけんなっ!」 盗んだバイクで走り出す巧は、これ以上この女の声を聞いていたくなかった。 思い出される記憶――皆が死んでいく中、生き残り続けた自分とそれを嘲笑う暗黒の四つ葉=ラッキークローバー。 その中において頂点に立つオルフェノクこそが、彼の仇だった。 幾度となく刃を交え、それでもなお斃せぬ“剣”の使い手たるオルフェノク。 殺し合い続けた六年間という歳月は、風化することなく青年の心を蝕んでいる。 《前方にワープゲートを用意しましたぁ、良い旅を~!》 ブレーキを思わず掛けるが、間に合わない。異常なまでの強風に、オートバジンごと吸い込まれる。 時空の穴はまるで虹のような混沌の七色。そこに吸い込まれていく――虚空を掴むように手を伸ばすが、誰の手も掴めず。 ただ、幻影だけがあった。 ――真理……啓太郎……! 失った人々の記憶が駆け抜ける。 そして、彼の意識は途切れた。 ◇ 西暦200X年、四月。 第八世界ファージアース――所謂一つの地球という奴である。 その極東は日本列島、東京の夜は今日も騒々しい。 今日は平和を謳歌できると喜んでいた先輩たちが、突如として“任務”で連れ去られたりとか。 まさかマンホールが落とし穴になっていて、特定の人物を罠に嵌めるなどとは想像できなかった。 とにかく平穏ではないが、平和と言って差し支えないはずだと――志宝エリスはそう思う。 今年で満十八歳になるエリスは、薄紫のショートカットの髪と翠の瞳を持つ、何処か異国情緒在るぽややんとした少女だ。 後にマジカル・ウォーフェアと呼ばれることになる、ウィザードと侵魔(エミュレイター)の戦いの最終章。 その戦いにおいて最も重要な役割を演じた彼女は、今は先輩の赤羽くれはの家に居候の身である。 くれはの母から頼まれた買い物を済ませ、エリスが帰路を歩んでいると、風切り音が聞こえた。 具体的には上空から何かが落下してくる音なわけだが。 本能的に危険を察知し、少しだけ後ろへ下がりながら天を見上げる。 ―――空に開いた不気味な“裂け目”から、銀色に輝く近未来的デザインのバイクと、二十代前半ほどの青年が落ちてきていた。 固まる。 状況が一瞬理解出来なかった。 これで落下しているのが、守護者アンゼロットに拉致された柊蓮司というウィザードだったなら理解出来るのだが。 …………柊本人が聞いたら嘆き悲しみそうだが。 ともかく、このままでは地面へ叩きつけられて大怪我をしてしまうだろう。 落下してくる青年がウィザードであるという可能性は失念し、エリスが大いに慌てた瞬間。 ガコン、と云う機械音と共に、バイクが変形した。折り畳まれていたフレームが展開され、手足を形作る。 “非常識”なことに、一瞬で人型ロボットになると、搭乗者の青年をホバリングして受け止めるバイク。 そしてロボットは青年へ道路へ横たえると、自らも再びバイクに戻った。 後に残されたのは、バイクらしきロボットと空から降ってきた青年、そしてエリスだった。 志宝エリスはかなり戸惑いつつ、それに近づいた。 「……え? その……?」 果たしてどうしたらいいかわからず――少女は立ち尽くした。 とりあえずくれはの母に携帯で連絡を入れることを思い至ったのは、それから一分後のことである。 ◇ さて、至極どうでも良いことだが――乾巧は熱いものが苦手だ。 これは彼の人間としての終わり/オルフェノクとしての起源――火災で事故死したという記憶が為せるのか。 それともただ単に苦手なだけなのか、定かではないが、極端な猫舌であるから熱いラーメンはおろか味噌汁すら満足に啜れない質で、 ぶっきらぼうな性格と相まってよく人に誤解される。例えば善意で出された熱々の料理をよく冷まし、ふーふー口で息を吹き掛けながら食べたりする。 ついでを云うなら、寝るときは逃亡生活の習慣として軽装が基本だったから、ここ数年まともな布団で寝た記憶もない。 そんなわけであるから、分厚い布団に寝かしつけられているという状況は、巧にとって辛いものがあった。 目を覚ますと何故か、見知らぬ民家の和室に寝かしつけられていた。ご丁寧にファイズギアが入ったケースは枕元に置いてある。 拘束されているわけでもないから、どうにも妙だった。溜息をつく。 「なんなんだよ……」 別次元へ人間を送り込む装置……にわかには信じがたい。 スマートブレインが巧を拉致して騙している、という方がまだ納得できる。 だがしかし――。 「あ、起きたんですね。待っててください、ご飯持ってきますから」 入室した影――見慣れない学校の制服を着た、十七歳ほどの可憐な少女が自分を騙しているとも思えなかった。 もう一度だけ、青年は気づかれないように溜息をついた。 ◇ ――異空間に浮かぶアンゼロット城。 日々、異界<裏界>より人類を襲うエミュレイターたちと戦う、現代の魔法使い=ウィザードたちを束ねる守護者の居城である。 城主たる、少女の姿をした世界の守護者、アンゼロットは眼を細めて部下からの報告書に目を通していた。 その書類はとある異世界――と言っても平行世界の“地球”の話だ――に関するものであり。 「……オルフェノクにスマートブレイン……厄介なことになりましたわ」 人類の進化形たる存在と、彼らの庇護者たる超科学の僕たち。 人間(イノセント)の殆どが異形なるものに変わった地球の、世界結界の様子を記したものだ。 ロンギヌスの有志が平行世界の人類――数少ないウィザードの生き残りだ――に接触して情報を収集した結果、 明らかになったのは世界の“常識”の変化だった。それまでの世界結界の在り方が“非常識”としてオルフェノクを拒絶し、 彼らの身体の灰化――細胞の急激な劣化だ――を促進させていたのに対し、人類オルフェノク化が進んだあとの世界結界は反転していた。 生き残りのウィザードは語る。 『奴らオルフェノクは、月衣や月匣を持たない……だから“自分たちを拒絶する世界”を書き換えたのさ。 裁定者もスマートブレインの飼い犬だ……気づいたときにゃ、 オルフェノクの身体に灰化は起こらないのが“常識”で、人間に拒絶反応が出るようになっちまった』 さらさらと身体の一部を灰にする妻を悲しげに見つめ、ウィザードの男は語ったという。 それだけなら異世界の悲劇と言うことも出来ただろう。 だが、ロンギヌスが収集した情報には見逃せないものがあった。 曰く、 『向こうの守護者に伝えてくれ……奴らはこの星だけじゃなく、並列世界の大元――』 ――オルフェノクは限界を迎えた惑星を捨て旅立つ。 『――ファージアースに侵攻するつもりだと』 アンゼロットは如何にも悲痛そうに眉を提げると、紅茶を優雅に飲んだ。 妙に苦みだけが強く感じられた。思案し、そろそろ柊蓮司たちが来る時刻だと気づく。 為さねばならない。ゲイザー亡き今、世界を護れるのは己だけなのだから。 扉が開いた。真顔で、彼らに告げる―― 「――私のお願いに、ハイかYESで答えてください」 ◇ 「異世界……ですか?」 突拍子もない言葉に、志宝エリスは思わず聞き返していた。 空から降ってきた青年――乾巧というそうだ――は少女が持ってきた熱々の雑炊を複雑な顔で眺め、 レンゲですくってフーフーしながら食べつつ、「ああ」と答える。 「胡散臭い奴らにぶっ飛ばされたんだよ、詳しい事情はさっぱりだ」 我ながら酷い説明だとは思うが、他に言い様もないのが現実だ。 まさか初対面の人間に『オルフェノク』や『スマートブレイン』のことを話すわけにもいくまい。 よしんば話したところで頭のおかしい奴か狂言だと思われるのがオチである。 異世界から来た、というのも十二分に怪しい説明ではあったが、エリスは巧とオートバジンが“裂け目”から落下するところを見ている。 中途半端に説明したり沈黙を貫くよりは、そちらの方がまだマシだろう。正直、不器用な巧では上手い嘘がつけないというのも事実だが。 すると、何故だか知らないがこの家の居候だという少女は、翡翠色の瞳でこちらの目を見つめてきた。 「……おい?」 「あ、すいません。目を見れば、その人が嘘をついているかわかるって聞いたことがあって……」 なんだかなあ、と思いつつ、 「別に信じなくても良い。俺も信じられない話だしな」 そう苦笑する巧に向けて、不意にエリスが言った。 その表情はとても真摯で――彼にとって眩しすぎる。 「大丈夫です。乾さんに協力してくれそうな人、私知ってますから!」 ――ピピピ。 場違いな携帯の着信音――彼女が「ちょっと失礼しますね」と断って通話状態にすると、 ひどく焦ったような声が聞こえた。歳は巧より六歳ほど年下だろうか、エリスと同年代の少年と青年の境界にいる年頃だ。 《エリス! 今すぐおばさんを連れて逃げろ、そっちにオル――……》 通話が切れる。 「柊先輩!? いったいどうしたんです!?」 一方、巧のオルフェノクとしての超感覚は、“覚えのある”気配を感じていた。 或いは、あの世界からスマートブレインが寄越した追っ手か。 彼は布団を跳ね飛ばし起きるとファイズギアの入ったケースを開き、ファイズフォンを取り出す。 腰にベルト型変身ツール<ファイズドライバー>を巻き、障子を開けて外に立つ人影を睨んだ。 「――よぉ。久しぶりだな、乾巧」 ――その声と口調、そして容姿は。 「え――」 その人影を見た瞬間、志宝エリスの顔に驚愕が浮かぶ。 何故ならばそれは見知った貌でありながら――別人のものであったから。 男はざんばらの茶髪を夜風に揺らし、フィンガーレスグローブを嵌めた手をあげる。 ――彼女の思い人、柊蓮司と瓜二つだった。 「……ここで決着を付けてやる」 巧はそう呟くと、携帯電話型トランスジェネレーター<ファイズフォン>にコード入力――【555】。 続いて【ENTER】キーを押す。 【STANDING BY】 バックルの<フォンコネクター>にフォンを突き立て左側に倒し、乾巧は叫んだ。 「変身ッ!」 “適合者”を認める機械音声が響くのと同時、それの存在を感知するのは、 次元の裂け目よりファージアース上空に転移した、スマートブレイン製人工衛星<イーグルサット>。 そのシステムが電子レベルまで分解されたスーツを、ライダーズギア装着者に転送する。 【COMPLETE】 流体エネルギー<フォトンブラッド>の循環するエネルギー流動経路<フォトンストリーム>がベルトから全身へ形成され、 フォトンブラッドの紅い輝きが夜闇を切り裂く光明となりて、驚愕に目を見開くエリスの視界を一瞬奪った。 少女が目を開ける――。 「――乾……さん?」 そこにいたのは仮面の騎士とでも言うべき、異形のライダースーツに身を包んだ巧だった。 何処かギリシャ文字の「Φ(ファイ)」を思わせる黄色い目の仮面、漆黒/白銀/紅蓮の特殊戦闘強化服=ライダーズギア。 超科学の生み出した“ファイズ”が、ゆっくりと“柊蓮司に似た誰か”に歩み寄り、 《っ!》 数トンの打撃力を持つ蹴り――荒っぽい喧嘩殺法だ――を繰り出す。 まともな人間が喰らえばどんなに太い骨格でも粉砕される一撃。 されど、柊蓮司に似た者は――ずるり、と虚空から“ウィッチブレード”を引き抜いた。 金属のぶつかり合う反響音/ライダーズギアの特殊合金と刃金の激突――耳を打つ。 ファイズの蹴りと拳のコンビネーションを弾いていたのは、夜闇の如き黒い刀身。 志宝エリスがよく知る、先輩のそれとまったく同じ荒っぽい剣技。 知らず、呟いていた。 「貴方は……?」 男は悲しく嗤う。 「俺は――」 魔女の剣を持つウィザードの瞳が灰色に変わり、竜の顔が投影される。 メキメキと蠢く月光直下の影は、細身の外骨格を纏う、竜人とでも呼ぶべき姿へ。 長大な剣を振るう速度は人外の膂力によって跳ね上がり、拳で応戦するファイズの劣勢が濃くなる。 火花/火花/火花――仮面の騎士が弾き飛ばされ、地面を転がりながら立ち上がった。 憎々しげに吐き捨てられる名前は。 《……柊……レンジ……!》 『――柊レンジの成れの果て―――ワイバーンオルフェノクだ』 ◇ 斯くして蒼き星を巡る戦いは加速する。 これはあり得ぬ物語、語り継がれぬ御伽噺。 仮面の騎士と夜闇の魔法使いの剣戟舞踏である。 ← Prev Next →?
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/216.html
静寂が、訪れる。 紅き世界で、喋るものはただ1人。 「いやあ。本当に楽しめたわ」 ファルファルロウがどこか嬉しそうに言う。 ゆっくりと、崩壊を始めた月匣の中で。 「大公はんがなんだってあんなに世界侵略が好きなんか、ちょっと分かった気がする」 ルーラーを失い、月匣が崩れ去るのに連動して、裏界の穴も小さくなって消滅する。 それを気にも留めずファルファルロウはその手を胸元へと持って行く。 「負けるのも…意外と楽しいもんなんやな」 完全に、いっそすがすがしい位なにも無くなった胸の穴へと。 「まさか最後の最後で、あんな隠し玉出てくるとは思わんかった」 そちらを見る。その…光で焼きつくされ、全身が焼け焦げた吸血鬼の方を。 「まったく、とんでもない適応能力やな…」 ファー・ジ・アースの吸血鬼の中にすら、その使い手は少ない。 使えるとしたら、そいつは気が遠くなるほど長生きした吸血鬼か、血反吐を吐きまくって戦い続けてきた吸血鬼だけだ。 「ええやろ。この告発者ファルファルロウが認めたる」 死に瀕したとき、人間はとんでもない力を引き出すことができる。 それは…元は人間だった吸血鬼でも同じこと。 「アンタの最後の一撃。最高やったで」 吸血鬼の最後の必殺技に対してそう、言い残し。 月匣と共にファルファルロウはこの世界から消滅した。 「サフィー!」 静が駆け寄り、小さな身体を抱きかかえる。 「なんだって、こんな真似…」 その身体は軽かった。悲しくなるほど。 「…うっさいわね。さっき言ったじゃない…」 「サフィーちゃん!?」 抱きかかえられたまま、サフィーがうっすらと目を開く。 「あんな目にあうのは…1回で…十分よ」 温かい。生きてる人間の腕だ。 その腕の感触が酷く懐かしくて泣きそうになりながら、サフィーがささやくように言う。 (死ぬときには今までの思い出が全部蘇るって言うけど…) もう助からないことを自覚しながらサフィーは回転が止まりそうな頭でぼんやりと考える。 (嘘だったのね、あれ) 思い出されるのは最近のできごとばかりだ。あの、クリスマスの夜より後ばかり。楽しかった思い出ばかりだ。 (ま、いいか…ん?) 顔に生温かい感触を感じる。唇から入ったそれは…しょっぱい。 「もう…そんなに、泣かないの」 そう言いながら静の涙をぬぐおうと小さな右手を上げた瞬間…その右手が土くれに返って崩れ去る。 「ちぇ…もうちょっとくらい気を…きかせろっての。だらしのない…身体」 今度は足。くるぶしより下が無くなる。 「しょうがない…1回しか…言わないわ」 今度は左手。時間はそんなに無さそうだ。そう悟ったサフィーが目の前で泣く少年に伝える。 「ありがと。あんたのお陰で、結構楽しかったわ。じゃあ…さよなら…」 そう言うとサフィーはゆっくりと目を閉じて。 動かなくなった。 「せんせい…」 「静さん…」 我に帰ったいのりと目を覚ました銀之介がサフィーを抱きかかえたままの静に声をかける。 何を言っていいのか、2人には分からなかった。ただ、静のどうしようもない悲しみだけが伝わってくる。 沈黙が、再び訪れる。ただ、ボロボロと少女の肉体が崩壊して、土くれに帰って行く音だけが辺りに響く。 「あんなのは…1回で十分…」 それを破ったのは…静の言葉だった。 「奇遇だね。僕もさ」 ギリッと唇を噛みしめる。唇から血が流れおちる。 「目の前で、女の子を助けられないで終わり…そしてずっと後悔し続ける」 体内に残ったプラーナをかき集める。 「そんなのは…1回で十分だ!」 うまくいく可能性がどれだけあるのかは分からない。 「だから…」 だから、ただ信じる。信じてやる。目の前の女の子の悪運の強さを! 「帰って来い!サフィー!」 そう、静は叫んで。 サフィーの唇に自らの唇を重ねた。 * (どこよ?ここ…) 気がつくと、サフィーは川べりにたっていた。辺りには無数の花が咲いている。 (確かアタシは魔法で焼かれて…) いつの間にやら傷どころか服の破れすら無くなっている。不可思議な現象に首をかしげる。 (何がど~なって…) 「サファイア」 声をかけられて、サフィーの体がピクッと反応する。その声には聞き覚えがある。 サフィーの知る限り、ありえないはずの声。とっくの昔に、死んだはずの奴の声。 「…なんでアンタがここにいんのよ」 不機嫌な顔で顔を上げる。 川の向こうには一人の男が立っていた。背の高い壮年の男。ロマンスグレーの髪と異様に悪い顔色と黒い服。そしてとどめに黒マント。 どっからどう見てもあれ以外には見えないその男。 「クソ親父…」 「相変わらず元気そうで何よりだよ。サファイア」 老齢吸血鬼、フロイデッドは相変わらずの自らの娘にちょっとだけ苦い微笑みを返した。 「ここはな、いわゆる…あの世とこの世の境目って奴らしい」 フロイがサフィーに語りかける。 「…そう」 それを聞いて、サフィーはむしろ冷静さを取り戻した。 胡散臭いが、本当ならば逆に色々と説明がつく。 まったく覚えのない場所に傷一つ無い身体、そして、とっくの昔に死んだはずの男。 そう言えば普段なら非常にゆっくりとだが確実に動いているはずのものの鼓動がまったく感じられない。 どうやら今のサフィーは… 「…そういや昔トナが言ってたっけ。死ぬと川が見えるとかどうとか」 「その通り。ここはそう言う場所だ」 サフィーの考えをフロイが深く頷いて肯定する。 「そう。じゃあやっぱりアタシは…」 冷静に考えればむしろ当然だ。あれだけのダメージを受けて生き伸びれるほど化け物だった覚えは無いし、実際肉体の崩壊だって始まっていた。 あそこから蘇れる吸血鬼なんて…サフィーの記憶にある限りでは、いやしない。 「あ~あ…とうとうアタシも終わりか」 「不満かね?」 溜息をついて呟いた言葉に、フロイが聞き返す。 「う~ん、そうね…」 その言葉にサフィーは今までの人生を振り返って。 「…まあ、いいわ」 そう、結論した。 「本当だったらあの時に死んでたはずだから、6年分得したって思う事にする。今さらあっちに未練も無いし、ね」 微笑んで、言う。 だが、その言葉に、フロイはむしろ意外そうな顔をする。 「…そ、そうなのか?」 「何よその顔は?」 その顔に不満を隠そうともせずサフィーが問い返す。 「別に迎えとかそ~ゆ~つもりじゃあ無かったんだが」 う~んと考え込んでしまう。まさか娘がここまで覚悟してるとは思わなかった。 「は?じゃあど~ゆ~つもりだったのよ」 怪訝そうに問い返す。迎えじゃなかったら、なんなのだ。 その言葉に、フロイはこう答えた。 「いやなに。ちょっとだけ、話をしておきたい、そう思ってな」 「話?なんの?」 「ああ、話だ」 そう言って、フロイはその言葉を口にする。 「おめでとう。サフィー」 「は?」 意味が分からないと言った顔のサフィーを気にも留めず語り続ける。 「実はね。少しだけ後悔していたんだよ。お前を、幼いままの姿で吸血鬼にしてしまったこと。 あのままくたばるよりはマシかも知れんが、その姿では永遠を共に過ごすものを得るにはあまりに不利だ、とね」 「…いいわよ。もう。その話は」 苦虫をかみつぶしたような顔でサフィーが言う。 サフィーだって考えなかったわけじゃあない。むしろ何度も考えたし、フロイを恨んだことだってある。 自分が、あと10歳年を取ってから吸血鬼になっていたら、もう少しましだったんじゃないかって。 永遠の7歳は、男女の愛を育むには、あんまし向いていない。 「だが、その心配はどうやら無用だったようで、安心したよ。流石は我が娘だ」 「ちょっと、ど~ゆ~意味よ?」 「なかなか知的な好青年じゃないか。少し胡散臭いがそれもまた、味のうちだ」 「だから、ど~ゆ~意味かって聞いてんの!」 サフィーの問いを無視して延々と語る。時間が無いのだ。 …娘が帰ってしまうまで。 「なぁにお前ならすぐに隙の1つや2つ…「《ヴォーティカルカノン》!」げふぁ!?」 そうだった。こいつは思い込んだら一直線だったと思い出しながら、突っ込みをいれる。 射程4sqは伊達じゃない。きっちりと川の向こうまで届いた。だが… 「痛いじゃないか。サファイア」 顔面へのクリーンヒットをもろともせず、フロイはサフィーに抗議する。 効いて無い。流石はサフィーの父親と言ったところか…もう死んでるからかも知れないが。 その様子にサフィーは溜息と共に返した。 「だから、話が見えないって言ってんの」 「おお、そうか。そう言えばおめでとうとしか言ってなかったな。改めて、言いなおそう」 今気づいたとでも言うようにポンと手を叩いて、フロイが言う。 そして、その言葉を口にした。 「お前にも、恋人が見つかって本当に良かった。おめでとう。サファイア」 * 「まだ違うわよ!?」 サフィーが叫ぶ。顔が熱い。ついでに心臓もドキドキ言っている。 …ドキドキ? 思わずサフィーは心臓へと手をやる。いつもより大分元気に動いている。ここまで跳ね上がったのは6年ぶりだ。 …手? 自分の手の方を見るといつの間にやら新しく手が生えていた。崩れ去って土くれに帰ったはずの手が。 肌寒い。空にはいつも通りの黄色い満月が輝いている。 そして…口の中にはなぜだか覚えのある味がまざまざと残っていた。 「え?これって…」 「良かった!生き返ったんだね!」 頭が状況を認識する前にギュッと抱きしめられる。 端正で知的な顔が、泣いたせいで台無しになってる。 「シズク…?」 その少年の名をサフィーが呼ぶ。 「一体、何が、どうなってんのよ?」 サフィーの問いに、静は涙をぬぐい、笑顔で答える。 「言っただろう?サフィーちゃんは…ウィザードに“なった”って」 ヒーラーがいないことを嘆いていても始まらない。こういう場合こそ冷静に可能性を模索する。 そして、静はその方法に達した。 「いいことを教えて上げる。ファー・ジ・アースの…ウィザードの吸血鬼はね…」 静の血をすすったことでサフィーはウィザードになった。ウィザードの“吸血鬼”に。 だから、自らの血液を媒介にプラーナを分け与え、あとは信じる。 「灰からだって…蘇る!」 目の前の少女が“ウィザードの吸血鬼”であることを。 「本当に…本当に良かった…また、失うところだった」 再び抱きしめる。涙が止まらない。でもいい。だってこれは…嬉しいから出てる涙だから。 (親父が言ってたのは…このことだったのね) 静を抱き返してサフィーは目を閉じる。 いい匂いがする。サフィー好みの匂いだ。 頭がよくて、皮肉屋で、プライドの高くて、優しい…少年の匂い。 (ったく。そんなに泣かないの。男の子でしょ) 母親のように、泣きじゃくる少年をあやし、抱きしめながら。 ―――少女は、生涯2度目の、恋をした。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/301.html
ここで、話はエリスがピンクのうさぎを拾った前日までさかのぼる。 アンゼロット城、ショッピングモール内。そこに、その店はあった。 店の名は、居酒屋『ろんぎぬす』 異世界出身だと言う主人が経営するこの店の方針は、「来るもの拒まず、ただし喧嘩は外でやれ」 訪れたのがどんな人物、否生物であれ、気にせず注文に応える(お代を払わない客を除く)サービス精神。 目の前で異常な光景が起こってもスルーできる肝の太さ。 そしてやたら豊富な人生経験から出てくるアドバイス。 何故か軍人口調の美少女吸血鬼だのハードボイルドな雰囲気の絶滅社のフェレットだのどこぞの魔王の落し子だのと言った怪しげな常連たち。 今やこの店はアンゼロット城の隠れた名所(笑)としてウィザードその他の間でもそれなりの知名度を持っている。 …もっとも、半ば怖いもの見たさといったところだが。 さて、変なもの同士は集まりやすいのか何なのか。この店に訪れる客は、変わり者が多いこの界隈でも特に変な客が多い。 その日もまた、店はそんな変な客を迎えていた。 「おやっさん。おかわり」 その客が店にやって来たのは、まだ日も暮れきっていない、夜の営業を開始した直後のことだった。 黙っていれば金髪碧眼で高級そうなスーツを着たナイスミドル。 およそ居酒屋には似合わないこの男がふらりとやってきて、はや2時間。 延々飲み続け、既に一升瓶を2~3本は空にしている。 「…大丈夫ですか?飲みすぎは体に毒ですよ?」 「あ~、い~のい~の」 流石に見かねて忠告する店主に男はぷらぷらと手を振って答えた。 「あいつらだってさすがにここまでは追ってこないだろ~し、ここならプリキュアとばったりなんてことも無いから酔っ払ってても問題ないの」 楽しそうにひとしきり笑ったあと。 「…それに会社も無ければ行くところもない。今さら身体気にしてもしょうがないってね。ハハハ…はぁ」 空元気だったらしく一転してどんより落ち込む。 「考えて見れば、たった1年しかたってないんだよなあ…」 真っ赤な顔をして、ポツリと呟く。 「おやっさん、私はね、ほんの1年前まで出世街道を驀進してたんだよ。文字通り身を粉にして会社に尽くして来たし、成績だっていつもトップクラスだった。 部署をひとつ任されたのだって他の誰よりも早かったし部下だってちゃんといたんだ…」 遠い目をしながら、苦しかったこの1年を振り返る。 「それがあいつらに関わるようになってから部下は次々殉職、部署は無くなってお茶くみからやりなおし、挙句に会社が丸ごと消滅…ほんと~にあっという間だった」 微妙に物騒な単語を呟きつつ彼の脳裏によぎるのは、1年の思い出。 すべてはうまく行っていた。あいつらが出てくるまでは。 「心機一転やり直そうとしたらま~た出てきて、邪魔するし。なんか1人増えてるし。私をリーダーって認めないし」 すっかり愚痴モードに入って男は喋り続ける。 「給料査定ともサービス残業ともリストラとも縁のないガキの癖に夢だの希望だのってきれいごとだけで突っ込んでくるんだもんなあ。 仕事でやってるだけのこっちはたまったもんじゃないよ。今は人間の世界には迷惑かけてなかったんだから、ほっといてくれってんだよ」 はふう~と再び溜息をつく。 辺りにどんよりと重い空気が漂う。 その時だった。 「…お客さん、どうぞ」 男の前に小鉢が置かれる。 「おやっさん?」 「私からの気持ちです。お代は結構ですから、召し上がってください。酒だけじゃあ身体に悪いでしょう」 「しかしだね。私にはもう何にも無いんだ。だから…」 「だからこそ、ですよ」 陰鬱とし始めた男の言葉に重ねるように、店主が言う。 「…私もね、この店始める前はとある組織で働いてましてね」 店主が遠い目をして、言葉を紡ぐ。目の前の、客に対して。 「ガキどもに邪魔されて出世の道がつぶれたり、左遷されたり、慣れない営業やらされたり…色々ありました」 目の前の客は、店主に嫌なことを思い出させた。 それは昔、散々飲まされた、煮え湯の味。愛だの友情だので何度でも立ち上がってくる、常識外れのガキどものこと。 「そんな待遇に嫌気がさして、裸一貫でこの世界に渡って来て…それで、分かったんです」 そう、目の前の客はどこか昔の自分に似ていた。組織を捨て、自暴自棄になってた頃の自分に。 「結局最後にものを言うのは健康な身体です。人間、それさえあれば何度でもやり直せる」 「やりなおす?無理だよ」 店主の言葉を男は自嘲を込めて鼻で笑う。 「私は、負けたんだ。負けた奴には何にも残らない。それはね、私が一番よく知ってるんだ」 そう、知っている。競争に、戦いに負けた奴の末路は、嫌ってほど。 「残りますよ」 だが、その客の言葉を店主は否定してみせた。 「そりゃあお客さんは負けたのかもしれない。けれど、今、こうして生きている。少なくとも、命は残ってるわけです」 目の前の客には頑張ってほしい。そう、素直に思えたから。 「だったら、また始めりゃいいんですよ。勝つまで、何度でも。 どうせ1回負けてるんだから、また負けたって構わない、どの道勝つまで続けるんだから、て思えば楽なもんです」 そう、客に言うと店主は黙りこんだ。 伝えたいことは、全部伝えたから。 「そうか…そうだよな」 男は心の奥から、じんわりと湧いてきた温かいものに気づく。 そうだ。前に一度だけ、感じたことがある。そう、これは。 「ナイトメアが無くなったときだって、何とかなったもんな」 あの時感じた、開放感。全部なくして、それでも生きていることへの感謝。 「…おやっさん。ご馳走さん、いくら?」 立ち上がって財布を取り出し、店主に問う。 「ツケにしときますよ」 それに店主は笑顔で答える。 「今度は元気な時に来て下さい。お代はその時にいただきます」 「そっか…ありがとう」 店主の言葉に、男は今はありがたく好意を受けておくことにした。 「おいしかった。また、寄らせてもらうよ」 店主への、誓いの言葉とともに。 * 「よ~し、やるっきゃないか。いつまでも無職じゃあ、困るもんな」 店の外に出て伸びをする。 「考えてみりゃあ悪いことばかりじゃあ無いよな」 さっきまでは全然考えられなかったことだが、今は素直にそう思える。 「プリキュアのいない異世界で一からやり直し。うん、悪くない」 うんうんと頷いて見せる。 「ここもエターナルの連中でも躊躇する『閉ざされた世界』だって言うからどんな酷いところかと思ってたけど、なんのこたあない。人間の世界と同じじゃないか」 『閉ざされた世界』…かつていた組織でも誰一人として踏み込んだものがいない魔境。 最近、何故か入れるようにはなったが今はローズパクトの没収が最優先なのと、調査に行こうと言うモノ好きがなかなか見つからなくて放置されている。 そんな話を聞いていたからこそ選んだ世界だった。彼らの追手の掛かりそうのない、逃亡先として。 「ただのブンビーとして、最初から始めるにはちょうどいい世界だ」 これならやっていける。男…ブンビーはそう感じていた。 「そうなると知り合いがいないってのもいかにも新天地って感じで…」 酒で高揚した気分で歩きながら呟いた、その時だった。 どっごおおおおおおおおおおおおおおおおん! 唐突にすぐそばの壁が破壊され、瓦礫と一緒に、ブンビーが吹っ飛ぶ。 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」 空中で体制を立て直しながら、戦闘形態…蜂を思わせる外骨格に包まれた姿へと変え、着地する。 「いったい何がどうなって…ってえ!?」 そして攻撃のあった方を見て、驚きの声を上げた。 なにしろブンビーが見たもの、それは。 コワイナアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!! 穴が開いてひび割れてはいるが見間違えようのない仮面をつけ、どっかで聞いたような叫び声を上げる、ある意味非常に慣れ親しんだものだったのだから。 * 話はさらにちょっとだけさかのぼる。 コワイナアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!! 絶叫と共に巨体から繰り出される一撃が複数の相手…警備任務についている新米ロンギヌスをあっさりなぎ払う。 「こちらロンギヌス警備部隊34号!敵と遭遇。月匣を展開し交戦するも苦戦中!至急応援を求む!」 吹っ飛ばされる前衛を尻目に必死で本隊に連絡を取る後衛のロンギヌス。その声には恐れと焦りが入り混じっていた。 それも無理は無い。 「例の冥魔だ!強すぎる!俺たちじゃあ歯が立たない!このままじゃあ…」 ここ最近、各地で突然出現し、暴れまわっている、かぎ鼻の道化を思わせる仮面をつけた冥魔。 時間も場所も選ばず出現し、その強さは下手な魔王の写し身にも匹敵すると言う奴らの出現。 覚醒して日の浅い、警備程度の任務に回されるロンギヌスたちでは、正直歯が立たない相手だった。 「ぐわあああああ!?」 「ぐっ…強すぎる」 「…くそう、明日は俺の結婚式だってのに…」 必死に支援要請を伝えている間にも、1人、また1人とロンギヌスは倒されていく。 「頼む!このままじゃあ…」 そう言いながら状況を確認したロンギヌスが言葉に詰まる。 「ぜん…めつ?」 気づいてしまったのだ。 既にこの場で立っているのは…自分1人だけだと言う事に。 「あ…あ…」 思わずその場にへたり込む。 コワイナアアアアアアアアア… 冥魔がゆっくりと追い詰めるように近づいてくる。周りには冥魔の攻撃で戦闘不能に陥った他のロンギヌス。 自らの状況を理解した男は絶望し、叫ぶ。 「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!だめだあああああああああああああああああああ!?」 そして、ロンギヌスを嘲笑うように冥魔が腕を振り上げた、その時だった。 ドシュン! 冥魔の振り上げた右腕が何かに吹き飛ばされて“消失”する。 同時に、足もとから音も無く黒い影が冥魔に迫り、冥魔の直前で飛び上がってその仮面にまっすぐ突っ込んでくる。 それを目…仮面の穴がとらえた瞬間、冥魔はほぼ反射的に残った左腕でその影振り払う。 その左腕は的確に影を捉え、影が大きくくの字に曲がったその瞬間 ボガァン! 大爆発して冥魔をひるませる! 「今だ姫宮!」 それを確認し、冥魔から少し距離を取った影が叫ぶ。それと同時に。 「うん!任せて一狼君!」 建物の屋上から1人の少女が飛び降りて、腕を振り上げる。 「てぇぇぇぇぇぇええええええええええええい!!!!!!!!!!!!」 少女の叫びと共にその腕が爆発的に膨れ上がり、指も手の平も無い、巨大な1本の『杭』と化して、冥魔の仮面に突き刺さる! ゴヴァイナアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!?????????? その一撃に冥魔は濁った叫び声を上げ、月匣ごと通りの反対側の建物を破壊しながら倒れこむ。 どっごおおおおおおおおおおおん! 「な、何なんだ…」 わずかな時間に起こった出来事についていけず、ロンギヌスが茫然と呟く。 「安心するがいい。ついでだが、助けてやろう。仲間を抱えてすぐにこの場を離れて、後は俺たちに任せるのだ。どりぃ~む」 そのロンギヌスに答えるように、渋い男の声が聞こえる。 そこには、怪しげな恰好の男が立っていた。眼帯をつけ、ぴったりしたへそ出しの服を着た、年齢不詳の…男。 「お、お前は!」 ロンギヌスはその男のことを知っていた。そう、彼こそはウィザードの中でも屈指の実力を持つ、傭兵ウィザード。 「絶滅社の死の茄子色カブトムシ!」 「…ナイトメア、だ」 ナイトメアが渋い声で訂正した。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/91.html
3話 Y氏のとある日常 -Pray- ヨーロッパにあるとあるウィザーズ・ユニオンの本拠地。 そのロビーには今、安いテーブルの上に取っ手のついた回転する八角形の箱が置かれ、 その特設会場の後ろの壁には大々的に『福引抽選会』とでかでかと書いてある紙が張られていた。 ……信じがたいことだが、こんなことをしているところが世界を侵魔の脅威から守っている組織の一つである。 閑話休題。 「おぅ?」 その抽選会場で、一人のウィザードがぽかんと目を丸く見開いていた。 そのウィザードが取っ手を回して出た玉の色は―――金色に輝いていた。 抽選会運営側のハッピを着た青年が、はっという声を上げて安いテーブルの上に置かれていた鈍い色の手鐘をとり、からんからんと鳴らした。 「おめでとうございまーすっ!特賞・『日本の交流区域をゆく -桃月町3泊4日の旅-』大当たりー!」 からんからんと鳴り響く鐘の音に、周りから漏れるのは特賞を手に入れた運のいい相手に対する拍手と、自分が賞を手に入れられなかった軽い落胆のため息。 ともあれ、特賞を手に入れたウィザードは久しぶりに行く日本に思いを馳せ―――『待ってろ日本!』と言わんばかりに目を輝かせた。 ミルで丹念に豆を挽く。程よく焙煎された豆が挽かれることで薫り高い匂いが立ち込めるが、これはまだ前段階だ。 次に、挽いてできた粉をドリッパーにかぶせたろ紙の上にセット、沸騰したお湯を一度は泡が膨らむまで大きく、二回目以降はできるだけ細く、円を描くように注ぐ。 この時の注意点としては、熱湯をかけることでこんもりと盛り上がる粉末と泡の交じり合った山があふれ出さないように、何度か分けてかけること。 そして、じっくりと抽出されるのを待つ。 そうして出来上がった黒く薫り高い液体を、眼鏡のさえない男が一口飲んでうん、と頷いた。 「おいしいよ、柊くん。ほんの一週間でこんなに上手くなるとはねぇ」 「あざーっす!」 「そうそう、最初はろ紙破いたりお湯を滝みたいにかけてたりした使えない子とは思えないニャ」 「うるせぇ黙れ猫又、三枚に下ろされてーか」 ここは喫茶エトワール。今の時刻は午後の2時で、いつでもヒマな喫茶エトワールでは当然客のいるはずもない時間帯である。 一週間ほど前に客として訪れ、そのままくるみの提案でこの店に住み込みで短期バイトをしている柊に、店長はヒマつぶしとしてコーヒーの淹れ方講座を行っていたのだ。 柊に(もとから悪い目つきで)睨まれて黙るのは、ここに住み着いているなんかよくわからない二足歩行をするナマモノ。 当人は魔法少女猫(マジカルニャンニャン)と名乗っているが、ベホイミ以上に魔法少女分のない謎のナマモノであるため、くるみにはクソ猫、柊には猫又扱いされていた。 エトワールになりゆきとはいえバイトとして入った柊は、意外にまともに仕事をこなしていた。器用度が高いのが幸いしているのかもしれない。 閑話休題。 店長は感慨深げに呟く。 「柊くん手順さえ教えればちゃんと料理も作れるし。コーヒーも淹れられるようになったんだから僕がいなくなっても安心だね」 「何言ってんですか店長、俺短期バイトなんですからいなくなられたらこの店潰れますって」 「えぇー……その用事くるみちゃんに任せるとかしてここで働かない?」 「桃瀬妹が聞いたらそれ泣きますよっ!?」 意外にきちんと敬語を使う柊。前の雇い主にはタメ口だったくせにえらい違いである。 もっとも、彼に言わせれば『任務のためとはいえ半年も学生を学校に行かせない組織とか、登校を嬉々として邪魔する連中に敬意払いたくなるか?』とのことだが。 そんな劣悪な労働条件下にいた彼からすれば、威厳がなかろうがヘタレだろうがオタクだろうが三食住み込みで雇ってくれた店長は神以上に有り難い存在なのかもしれない。 と、店長が時計を見て柊に言う。 「あぁ、そうだ柊くん。角のパン屋さんに行って来てくれないかな。食パン頼んでおいたの忘れてた」 喫茶店で出すのはコーヒーだけではない。 パフェなんかのデザートやトーストやサンドウィッチなどの軽食も出しているエトワールは、近くのパン屋からパンを仕入れている。 商店街の規定で、商店街の店舗間の品物の売買や店員割引などが定められているため、その方がお得なのである。 柊に断る理由はない。 「了解っす」 「ふん、今日は妙なことに巻き込まれるんじゃないわよ」 「黙ってろ猫又、活造りにすんぞ」 「ひどいこと言うわねこの野蛮人!動物愛護団体に訴えてやる!」 「たとえライオンを愛護しようとお前を愛護しようとする団体はいねぇっ!?」 そんないつものやりとりを数分繰り広げ、店長が止めに入り、メンチをきりあいつつ柊が外に出る、という一連がここ一週間の彼の日常だった。 桃月商店街を歩く。 時刻はまだ3時。ここから一番近い学校である桃月学園の生徒はまだ授業中だ。買い物の奥様方ももう少し日が傾かないと出てこない。 そんな昼下がり、通りを歩いている人影はまばらだ。 パン屋までは歩いて5分程なのだが、忙しさが一段落した店先から色々と声をかけられる。 「若いの、今日もコロッケいい色だぞー」 「よう兄ちゃん!今日はどこの悪いやつやっつけにいくんだい?」 「アイヤー、おにーさんちょっと寄てかないアルか。今なら跋家直伝地獄マーボー580円ポッキリアルよ」 この町に来て一週間も経たない内にこれだけ認知されているのは、やはりここ一週間の所業のせいだ。 引ったくりと銀行強盗を捕まえて、地方紙に載ってしまったことが主な原因である。 しかも、外に出ていく時にエトワールのエプロンを着ていたためエトワールに色んな人が訪れたことで彼の人格を多くの人が知ったこともある。 ともあれ、昔手違いであれ指名手配されたこともある人間をここまで暖かく迎える人々は、柊にとっても少しありがたいものだった。 適当に返しながら、町を歩く。満足そうに町並みを見渡しながらパン屋へ向かっている彼の。 ―――後頭部に思いきりドロップキックをかます人影があった。 「ひ―――いらぎっ!」 隙があったのか、その一撃を完璧な不意打ちで受けた柊は、声も出せずにおよそ人間から出る場合は不適切にすぎる音を立ててアスファルトの地面に叩きつけられる。 あまりの光景に、まばらに歩いていた人々が足を止めてそちらを向く。 犯人は、10歳くらいのお下げ髪の活発そうな少女だった。 明日の桃月新聞の見出しが10歳児による殺人事件で彩られる光景が周りの人間の脳裏に浮かんだその時、被害者ががばりと立ち上がった。 「てめぇ―――何しやがる望っ!?普通死ぬぞあんなん食らったらっ!」 「大丈夫だよひいらぎだし」 「その根拠のねぇ自信はどっから来るんだっ!?」 「大丈夫だったじゃんひいらぎだし」 「結果だけで物を語るなあぁぁっ!?」 たいした傷もない様子の柊。それもまぁ当然だ。この男、人工衛星に直撃されても死ななかったし、隕石を受け流したこともある。 ウィザードは月衣を纏うため一般人の攻撃はほぼダメージが通らない。しかし、痛くないかといわれればやはりちょっとくらいは痛いわけで。 あって当然な彼の主張を、しかし少女――― 一条家次女、一条 望は笑って受け流す。 望はこの近くにある桃月第三小学校5年2組のクラス委員だ。柊とは引ったくり事件の時に顔を合わせ、それから懐いた経緯がある。 「っつーかお前、俺以外にもあんな危険極まりない殺人未遂挨拶してんじゃねぇだろうな?いつか捕まるぞ」 「失礼ねー、そんなことしたらお姉ちゃんに泣かされるからしないよ」 「泣かされるからしないのかよ」 「ウチのお姉ちゃん怒らせると怖いんだよー?」 「知らねぇよ。姉貴っていう生き物が世界最強なのは知ってるけど」 そんな他愛もない会話をしながら、柊と望はしばらく一緒に歩く。単に行く方向が一緒なだけだが。 今度は望がたずねた。 「それで、ひいらぎは今なにしてんの?サボり?」 「お前こそ失礼なこと言うんじゃねぇよ。パン屋まで荷物取りに行く途中、ちゃんと仕事中だ」 「ふーん……あ、ひいらぎ。お姉ちゃんにひいらぎみたいな奴のことなんていうか聞いてみたんだけど」 「へぇ、なんて言ってた?」 「ちんぴらっていうんだって」 「いや、それは違う。なんか違う。違うと思いたい」 最後はなんか願望混じってるぞ。 ともあれ、そんな他愛無いやり取りをしていると、やがて柊の用事の場所であるパン屋の前までやってくる。 それを察した望がさよならを告げようとするのを見て、彼は言う。 「おい、望」 「ん。何か用ー?」 「遊ぶのはいいが、最近物騒なんだからさっさと帰れよ」 その言葉に、一瞬きょとん、として彼女は笑った。 「なに、心配してくれてんの?」 「近所のガキの心配すんのは当然のことだろうが。ともかく、友達と遊ぶのはいいけど早めに帰れ。いいな?」 「はいはーい。けど、心配いらないと思うけどなぁ」 望の言葉に疑問符を浮かべる柊に対し含むように笑って、彼女は言う。 「この町は魔法少女が守ってくれてるし―――それに、わたしたちみたいな子供がピンチになったら、ひいらぎだって助けようとするでしょ?」 「……俺はなんでもできる正義の味方サマじゃねぇぞ」 「知ってるよ、わかってる。早く帰るし、友達にも早く帰るように言うよ」 じゃね、と言って、彼女は元気に駆けて行く。その背中を見て、柊は一つため息をつく。 「ったく、人にあんまり重いモン背負わせんなってーの」 そう言いながらも、その荷物を下ろす気は彼にはない。結局、苦労性で損な性格をしているおバカなのだった。 紙袋に入った食パン5斤を受け取り、左腕で抱えてもと来た道を戻る。 少しずつ人が増えているのを見て時計を見れば、もはや時刻は4時半だ。よほどパン屋の爺さんのパン自慢を聞き流していた時間が長かったのか、と感慨深くため息をつく。 まぁ、あの店が忙しくなることはないだろうとあたりをつけてゆっくりと店に戻ろうとし―――前方に、重そうなビニール袋を両手に持ってふらふらと歩く子供をみつけた。 子供の持っているビニール袋の取っ手部分は伸びきって今にも千切れそうだ。それ以上にあんな重そうなものを運んでいる子供を放っておくのは、少し気が引けた。 空いている片手でひょい、と片方のビニール袋を持ってやる。 子供は驚いたように無言でビニール袋を奪った柊を見た。金髪で青い目の、綺麗に着飾った少女だった。年の頃は望と同じくらいだろうか。 ふらふらしながら、少女はきつい目で柊を睨んで言う。 「なんだよ、新手の引ったくりか?人呼ぶぞ」 「誰がこんな食いもんしか入ってない重いだけの荷物引ったくりたがるってんだよ。 ビニール袋千切れそうだから持ってるだけだ。こんなとこでぶちまけたら片付けるの大変だろ」 言われてう、とうめく少女。たった一つになったビニール袋を両手で掴むものの、それでもややふらふらしている。 柊は、その思いきり無理をしているのが目に見える少女を見て、一つため息。 最近ため息が多くなった気がする。幸せが逃げるぞ。 ともあれ、彼は奪ったビニール袋を肩まで上げると空いた手で少女の片腕を掴んだ。 「へ!?お、お前何するんだっ!この人さら―――」 「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇっ!? そんなふらふらしたガキ放っておけるかっ!いいから来い!」 なおも少女はぎゃあぎゃあと言っているが、店は目の前だ。無視無視。 店に戻ると、やはり店の中に客はいなかった。 というか、店長と猫又もいない。 カウンターの隅に、『町内会の集まりに行って来るからよろしくね柊くん』と書かれた置手紙があるのを見て、少し安心して任せすぎじゃないのか、と呆れる。 しかし、逆に言うのなら好都合だ。こんなちびっ子を連れてきたらオタク店長が暴走する可能性もある。 憮然としている少女に座るように促すと、合格が出されたばかりのやり方でコーヒーをいれてマグカップに半分くらい注ぎ、冷蔵庫から出したばかりの牛乳で割る。 こうすると熱い食べ物が苦手な猫舌の多い子供でも飲めるだろうという考えだ。 カウンターに座っている少女にそれを出すと、少女は不機嫌なのを隠そうともせずに柊を睨む。 「……金はないぞ」 「ガキから金とってどうする」 「子ども扱いすんなー!」 「そう言う奴は大抵子供なんだよ。それに、俺が勝手に連れてきた奴に俺が勝手にコーヒー牛乳出しただけだ。これで金とったら訴えられても文句言えねぇ」 そう言う柊に少し警戒の色を弱め、少女はシュガーポットから出した角砂糖をマグカップの中に入れて飲む。 両手でマグカップを持つ様子は、先ほどまで警戒をあらわにしていた少女とは思えないほど年相応に見える。 半分くらい中身を飲み干すと、幸せそうにぷはー、と呟く少女。 少女は、そんな様子を見ていた柊と目が合ったことで顔を真っ赤にして叫ぶ。 「な、なんだよ!なにニヤニヤしてるんだお前!見るな!見せ物じゃないんだぞ!?」 「む、ムチャクチャ言うなよお前……そんなことより、うまかったか?コーヒー牛乳」 「こういうの、コーヒー牛乳じゃなくてカフェラテって言わないか?」 「コーヒーと牛乳が混ざってる飲み物を日本で出せば、そりゃ全部コーヒー牛乳で十分だ」 世界中のコーヒー愛好家に謝れ。 閑話休題。 少しばかり緊張が解けたのか、少女はその言葉にふっ、と笑った。 「お前、ムチャクチャ言うな」 「よく言われる。っていっても、お前みたいなガキに言われるとは思わなかったけどな」 「子供扱いするなよ、これでも国民の義務は果たしてるんだぞ」 「義務って……まぁいいや。で?お前それだけの買い物で何するつもりだったんだよ。そんだけの量だ、家の手伝いってわけじゃねぇだろう?」 柊の言葉にしばらく逡巡していたが、話さないと開放してくれない類の馬鹿だと観念したのか、彼女はぽつりぽつりと話し出した。 学校の行事で、一人で料理を作ることになったこと。 自分は料理を一度も上手く作れたおぼえがないこと。 当日までみんなに内緒で練習しようとしていること。 なるほど、と柊は呟いた。 「けど、さすがにこの量は買い込み過ぎじゃねぇのか?60人前は作れるぞこれ。どんだけ失敗する気なんだ」 「う……仕方ないだろっ!加減も何も本格的に料理の練習するのこれがはじめてなんだぞっ!」 「まぁな。それで、何作るんだよ?」 「学校のイベントで作る課題はカレーだから、カレー作る気なんだけど……」 「……カレー作るのに豆腐とかあんことか白玉粉とかは必要ないと思うんだが」 ビニール袋の中に入っていた代物をごそごそ物色しながら柊がそう指摘すると、真っ赤になって少女は俯いた。 何も言わない少女。沈黙が落ちる喫茶店エトワール。 沈黙が苦手な柊は言い過ぎたか、と内心で罪悪感を感じつつ話を進めることで沈黙を終わらせた。 「チビ、それでなんでお前は料理作ったことないのにイベントで作ることになってんだ?」 「知るかっ!クラスの連中が勝手に登録したんだよ!仕方ないだろ!?」 「決まっちまったもんはしょうがないか。 ていうか、お前くらいの年だったら親の手伝いだの家庭科だので2回3回は料理したことあるもんじゃねぇの?」 「やったことないもんはないんだから仕方ない。今までやる必要もなかったんだし」 「そーゆーもんか?俺としてはなんでそこまで料理に近づこうとしなかったのか気になるけどな」 その、なんの気なしに言った一言に、少女はしばらく沈黙して―――搾り出すように言った。 「刃物、使うだろ」 は?といきなりの言葉に問い返すと、少女は独白するように続ける。 「あんなおっきな刃物使うんだぞ? はさみとかカッターとかならともかく、あんなおっきなので切ったら指が落ちるかもしれないんだぞ? 切ったら血が出て痛いんだぞっ!怖いじゃないかそんなの!」 俯いて両拳をぎゅ、と膝の上で握りしめる少女。 彼女が今まで料理をしてこなかったのは、刃物に対する恐怖心があったから。 普通、『料理をしたい』という考えが生まれるのは台所に立つ人間への憧れからだ。 憧れを真似るため、学び、練習をする。そうして経験が積まれていく。遠い憧れを、一つ一つの経験をへて理解へと至る。これが全ての技術習得の源だ。 しかし彼女は『刃物を持つことの怖さ』を理解しているため、憧れを抱くことよりも先に恐れを抱いた。 先のことを考えることができるというのは彼女が聡いことを指している。 けれど、これまで多くのことを経験すること―――体ごとぶつかることで学んできた柊は、ぽつりと呟く。 「―――そんなに怖がられちゃ、刃物の方が可哀想だな」 へ?と意外な言葉に少女が顔を上げると、柊はキッチンから一本の包丁を取り出していた。 それを光にかざすようにすると、一つ頷く。 「見てろ」 言葉と同時、彼は左手の手のひらに向けて包丁の刃を軽く振り下ろす。 包丁とはいえ刃物だ。使い方によっては人を殺す事だってできる。そんな凶器にもなりうるものを振り下ろす光景を見て、少女はぎゅっと目を閉じて耳を塞ぐ。 けれど、彼女の想像した光景が広がることはなかった。 柊の手のひらの上で、包丁の刃は彼の皮膚一枚傷つけることなくぴたりと止まっていたのだ。 不思議そうに目を見開いている少女を見て、悪戯を成功させた子供のように誇らしげに笑い、柊は言う。 「刃物ってのは、基本引かなきゃ切れねぇもんだ。 よっぽど重さがあるか、勢いをつけるかしなきゃ叩き切ることはできない。あんだけでかいギロチンも、落とす前にあの高さがなきゃ押し切れないんだ。 それをたかがこんな大きさしかない包丁で、骨ごと指落とすにはかなりの力か技術がいる。 確かに切りゃ痛いが、どこを使ってどうやったら切れるのかを覚えて丁寧にやれば怪我することはまずない。 ―――結局、刃物ってのは道具だ。 使う人間が使い方を知ってりゃ、無駄に何かを傷つけることはねぇ。それを覚える前から傷つけるからって遠ざけてたら、仲良くなることなんか絶対できねぇよ」 包丁で人を殺す時は、体ごとぶつかりながら突き刺すか太い動脈を狙って撫で切るかしかない。前者は度胸が、後者は技術が必要になる。 三徳包丁程度のサイズでは、刃の部分を引かずに叩きつけたぐらいで人の手を落とすことはできないのだ。 柊の言葉にしばらく目を白黒させていた少女は、何度か頷いた後不思議そうにたずねた。 「……お前、やけに刃物に詳しいけど刃物マニアかなにかか?」 純真な質問。 まさか『魔物を夜な夜なでかい剣で叩き斬る魔法使いやってます』と言えるわけもなく、目線をそらしてお茶を濁す。 「あー、そういうわけじゃねぇんだけどな。職業柄っつーかなんつーか」 「職業柄?……っていうと、アレか。大陸全土に散らばった伝説の8つの厨具を探して集める旅をしてる感じの」 「誰が万里の長城使ってオムライス作った史上最年少の特級厨師だっ!?そもそもあれ19世紀の中国の話じゃねぇかっ!」 そもそも漫画の話だってツッコミはないのか。 ともあれ、少女は握っていた手を解き、半分残ったコーヒー牛乳をこくりと傾けて飲み干すと、言った。 「なんか気が楽になった。やれるだけやってみる。やれないことがやれるようになるのは嬉しいし、それに対する努力をしようとしなかった私も馬鹿だった。 包丁と仲良くなるために、ちょっと頑張ってみることにする。もともと、逃げるのは嫌いだしな」 「なんかややっこしい考え方するなぁお前……。 他人事だからそこまで俺が口出すことじゃねぇんだけどよ。まぁ、やる気になったんならやってみろや」 そう、適当に返す柊。少女はカウンターの上にマグカップを置くと、言った。 「世話になったな。やる気になってるうちに家に帰って練習してみる、帰るよ」 「まてまて、これだけの荷物お前だけじゃ運べないだろ。ビニール袋切れそうだし」 「大丈夫だ。さっき迎えを呼んでおいた」 その言葉と同時、エトワールの入り口のドアベルが鳴り、外から何かが入ってきた。 それは、二足歩行するウサギのようだった。ウィザードから見れば『妖怪』と呼ばれる生き物だ。 そのウサギは体に見合うリュックを背負っていて、少女を見つけると嬉しそうに彼女に向けて走りながらそれを差し出した。 彼女はそのリュックから、折りたたまれていた大きな布の袋をとりだすと、ビニール袋二つ分の荷物を中に入れた。 そう言われては柊もついていくことはできないが、彼はできることをやるために言った。 「おいチビ、ついて来なくていいって言ってたけど最近物騒だ。 お前携帯持ってるだろ?出せ。ちゃんと帰れたら連絡しろ」 「……お前、過保護だって言われないか?」 「いや、はじめて言われたな」 ジト目でそう言った少女は、それでも満更でもなさそうに柊の携帯情報を登録する。 柊も自分の携帯に登録された少女の情報を確認するために携帯をいじると、意外そうに言った。 「へぇ、お前レベッカって言うんだ。もともと日本人じゃねぇのか?」 「血筋はハーフで国籍は日本だ。っていうか、今の今まで不思議に思わなかったのかお前は」 「髪の毛とか目の色とかはこれまで珍妙な奴山ほど見てきたしなぁ……日本語通じるなら別によくねぇ?」 「そんなこと言ってると国際社会に参加できないぞ」 柊は今割と国際社会に貢献してるわけだが。月衣と0-Phone って本っ当に便利ですねー。 レベッカの言葉に肝に銘じとく、と苦笑して、柊はもう一度釘を刺した。 「いいかレベッカ、無事に帰れたらちゃんと連絡しろよ?あと、なんか危ない目にあったらすぐ電話しろ。絶対助けに行ってやるから」 望に約束した以上、危ない目にあう子供を放っておくことは彼にはできない。 とはいえ、そんなことをいきなり真剣な表情で言われたレベッカは頭の中でその処理がしきれずにわたわたしながら真っ赤になった顔を俯いて隠してなんとか答えた。 「は、恥ずかしいこと言うなっ! あとそれから名前で呼ぶな!お前くらいの奴に名前で呼ばれると変な感じがするっ!」 「変なとこ気にするな?んじゃ、なんて呼べばいいんだよ」 「お、お前くらいの年頃の奴は皆ベッキーって呼ぶから、それでいい」 少し腑に落ちないものがあったものの、本人がそれでいいと言うのならそれでいいんだろう。 納得してじゃあなベッキー、と言うと、彼女は安心したような残念なような表情でそれでいい、と呟いて店を出て行った。 ぺこり、とウサギは柊にお辞儀をし、ありがとうございました、と言ってレベッカの後を追う。やがて追いつくと、二つの影は同じリズムで宵闇の町を歩いていった。 ―――彼らの再会は、意外と早く訪れることとなる。 「あぁ、それウチの学校の宮本先生っスね」 桃月町にある数年間ずっと改装中の札が貼られているボウリング場。 その中の、ところどころ穴の空いたビニール革のソファに座って缶の緑茶をすすりながらベホイミは言った。 彼女にエミュレイター退治の手伝いに駆りだされた柊は、月衣の中に店の残り物で作ったサンドウィッチをいれて、仕事が終わるのと同時に休憩にしたのだった。 そして今日一日の出来事について意見交換を行っている中、今日会ったウサギの妖怪を連れている少女についての話となり、それが終わるとベホイミはそう言ったのだった。 「先生って、話聞いてたかお前。あいつどう見ても10歳かそこらだぞ?」 「宮本先生はMITで博士号を三つとった天才なんスよ。今は本人の希望でこっちで教員やってるんス」 「へぇ。輝明学園以外にもいるんだな、そんなの」 彼の母校である輝明学園には16歳の中学教師がいるため、柊もそれ以上は食いかからない。 けど、と彼は続ける。 「10歳で教師っていうとなんか魔法使えそうだよな」 「いやいや、連れてるマスコットが違いますって。あのウサギエロくないしオコジョでもないですもん」 それもそうかと呟いて、柊はベホイミに促した。 「お前の方は?なんか進展あったか」 「そうっスね、調査頼んどいたのの結果が割と次々と」 まずこれを見てくださいっス、と言って彼女が取り出すのは桃月町の地図だ。 いくつも赤い印がつけられている地図の、印の部分を指しながら彼女は言った。 「印のところが、通り魔事件のあった場所っス」 「この配置見る限りは別に意味があるようには思えねぇな」 「そうっスね。知り合いもこの場所そのものには意味があるようには思えないって言ってたっス。 けど、この印のあるところのうち―――西口公園、商店街の路地裏、第三小学校、川沿いの小さな広場、そしてここ。柊さんは、何かピンとこないっスか?」 「……全部ここ最近お前と一緒にエミュレイターぶちのめしたとこってことか?」 そう眉をひそめて言う柊に、ベホイミは真剣な表情でこくりと頷いた。 エミュレイターの発生と通り魔のあった場所が重なっているという事実は、この二つの事件になんらかの関係がある可能性が高いという推測を成り立たせる。 「この二つには、何らかの同じ裏があることが予想されるっスね。 もしかしたら私が見回りをはじめてからはぱたりと止んでる通り魔の方も、相手への牽制になってるかもしれないっス」 「かもな。けど、こんないたちごっこ続けるのもお前の本意じゃねぇだろ?何よりお前短気だし」 「人をすぐキレる最近の若者みたいに言わないでほしいっスよっ!? ……けど、確かに焦れてくるっス。さっさと黒幕ぶちのめして終わらせたいとこっスね」 「だろ?そっちのほうの調査はどうなんだ」 がぶり、ときゅうりのサンドウィッチを口の中に叩き込みつつ、ベホイミは答える。 「とりあえず通り魔事件前後からここに潜入したウィザードは数人っス。 外部組織と強いラインのあるウィザードが中心だったっスけど、その連中は全員もとの組織に戻ってるっス。 つい最近入ってきたのが一人まだ滞在してるみたいっスけど、これは関係なさそうっスね。 あんまりにも最近っスし、それまでの足取りを見てもこっちに何かする余裕はなさそうな報告書っス。 となれば、組織の情報網に引っかからないフリーかそれに近い人間が犯人である可能性が高い」 「俺は犯人じゃねぇからな、言っとくけど」 「言われなくてもわかってるっスよ。 輝明学園をスレスレで、なんとか、辛うじてといった感じで卒業した柊さんに低位とはいえエミュレイターを召喚するような知識があるとは思えないっス」 「本っ当に酷い台詞吐きやがるなお前っ!?」 柊の台詞を軽くスルーし、ベホイミは報告を続けた。 「一応、そういう条件で探して引っかかったウィザードが一人いたっス。 まだ本人かどうか確認はとれてないんスけど郊外のウィークリーマンションを借りた人間に、 以前「黄金の蛇」の出先機関である「十輪樹形(サークルツリー)」で錬金術を学んだ魔術師にして錬金術師によく似た人間がいるそうっス」 「錬金術師?なんでそんな奴が……」 「そんなことは締め上げて本人から聞けばわかるっス!まぁ、確認が取れ次第本人のいるところに乗り込んでって捕まえる予定っス。柊さんも手伝ってくださいっスね?」 「そりゃ、手伝えって言われりゃ手伝うけどよ。 なんか変じゃねぇか?これだけ派手にプラーナ集めてりゃ町のウィザードが気づくのは当然だ。 俺だって考えりゃわかるんだ、そんな頭のよさそうな奴が気づかないはずがない。そもそもプラーナ集めたいならこの町じゃなくてもいいはずだろ? なんで、ここだったんだ?」 嫌な予感を感じなにやら考えこむ柊に、ベホイミが不思議そうに聞く。 「珍しいっスね。柊さんは考えてもわからないことに対して悩むのを無駄だと切り捨てる人だった気がするんスけど」 「俺だって珍しいと思ってるよ。ただ、なんか引っかかるだけだ。 この町を痕跡を残してまで襲った理由。 場所に意味がねぇんだとしたら、なんで襲った奴があの連中じゃなきゃいけなかったのかの理由。 他のウィザードに尻尾つかまれる危険を冒してまで、通り魔を一旦止めてエミュレイターを召喚してでも時間を稼いでるのかの理由。 こんだけわかんねぇことがあるんだ、すっきりしなくても当然だろ。何か他の目的があってやろうとしてるとしか思えねぇ。 それがわからなきゃ間違いで足すくわれかねねぇしな。事件のはっきりとした輪郭が見えねぇのに、黒幕だけわかってるってのはやっぱ気持ち悪いだろ」 こちらにここまで読まれることさえ計算済みなのではないか、と言う柊に、ベホイミは首を振った。 「かもしれないっスけど……それでも、虎穴に入らずんば虎子を得ずっスよ。 もしも罠だったとしても、柊さん罠踏み砕くのは得意でしょう?」 「うるせぇよ!?誰も好き好んで罠にかかりたがってるわけじゃねぇっ!」 へへーん、と笑ってベホイミはボーリング場の扉から駆け出した。 柊は今日あったことを思い出し―――外に出ながらため息をついた。 「明日もまた、大変そうだな」 そのため息は、どこか嬉しそうでもあった。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/4483otto/pages/60.html
ここは「輝明学園 アルファコンプレックス校」。 完璧で幸福な生徒たちが集う学校です。 理事長(UV相当):亮竜 中学二年生:ジャミス フカイン 魅魔幻想 鉛 静葉さんの夫 Part.A 05/16 24 08~29 24 Part.B 05/23 24 10~27 04 あらすじ 今回のミッションで、我々は、 何の成果も! 得られませんでしたぁぁー!!
https://w.atwiki.jp/night2ndandante/pages/47.html
...... パーソナルデータ 名前:ジューン 第一属性火 第二属性冥 種族 人間 性別 男性 年齢 16 ワークス 輝明学園高等部1年 身長 159cm 体重 48kg 目の色 紫 髪の色 黒 肌の色 色白 ウィザードクラス 落とし子 スタイルクラス アタッカー 戦闘スタイル 魔法双剣士 概要 裏界の魔王《ベール=ゼファー》と契約した落とし子。 ベールに絶対的な忠誠を誓っているわけではなく、彼女に対する態度や言葉遣いも丁寧とは言い難い。 その一方で絶対に逆らえない事実があることも理解しており、心に仮面を被せてベールの駒として暗躍する。 落とし子の力の代償は肉体の侵蝕と精神の磨耗。 体は時折焼けるような痛みに襲われ、精神は徐々に磨耗してやがて完全に魔王の操り人形になってしまう。 現在はベールの命令で輝明学園へ1年生として潜入している。戸籍や学籍等の必要な物は全て用意されていた。 ベールの真意は謎だが、クラスメイトの《北河響》とは特に仲良くしておくようにと念を押されている。 落とし子である事実は伏せており、学園の模擬戦闘等では落とし子の力を一切使わない。 学園では柔らかな物腰で誰に対しても敬語を使う反面、周囲に裏界、闇界の住人しかいない場合は敬語を使わない。 どちらが本当の自分なのかは本人にしかわからない。いや、本人にももうわからないのかもしれない。 戦闘 短剣と長剣の二刀流と攻撃魔法で相手との距離を問わずに戦える。 瘴気と呼ばれる裏界の力を駆使して戦う。その最大の特徴は破壊。 身に纏う事で攻撃の威力や身体能力を上昇させ、ぶつけることで相手を燃やし尽くす。 仲間を直接的に回復・補助する技をほとんど持たないが、攻撃能力は一線を画する。 武器・箒 《ナイフ》 種別:剣 妙に年季の入った古臭いナイフ。学園の模擬戦闘はこれ1本でこなしている 《デモニックブルーム》 種別:箒(白兵/魔法) ベールから渡された黒い刀身を持つ細身の曲刀。使用者と同調して魔法の威力を更に高める 使用魔法・特殊能力など 《ノック》 種別:低位魔法(汎用) 施錠されている扉を開ける魔法 我が意思の元に扉を開かん 《ダークブリング》 種別:低位魔法(汎用:冥) 自身の影に飛び込んで瞬間移動をする魔法。背後から容赦無い一撃を加える他にも回避・逃走など用途は多岐に渡る かかりましたね / どこを見ている? 《フォースブレイド》 種別:低位魔法(攻撃:冥) 剣圧から瘴気の刃を投射する魔法。発生が早くて便利 刻む! / 刻め! 《フレイムバインド》 種別:中位魔法(攻撃:火) 炎の大蛇を巻きつけて対象を捕縛する魔法 煉獄の炎、大蛇にその身を窶し彼の者を捕縛せよ 《ヴォーテックスランス》 種別:中位魔法(攻撃:冥) 高く跳躍して瘴気の大槍を投げつける魔法。こちらも発生が早め さあ行きますよ? / 覚悟は出来たか? バーストギャラクシア 種別:高位魔法(攻撃:火) 上空から巨大な炎を叩きつけて大爆発させる魔法。炎は瘴気を帯びて黒炎と化しあらゆる物を喰らい尽くす 天翔ける旅人を統べる王よ。我が冥き焔に染まりて全てを灰塵と化せ 《瘴気の城塞》 種別:瘴気 瘴気を身に纏う特殊能力 降参するなら今の内です / すぐに終わらせてやる 《リバースストライク》 種別:瘴気 身に纏う瘴気の量を劇的に増大させる特殊能力。その分術者をより急速に蝕んでしまう そろそろ本気を出しましょう / 僕の目の前から消えろ! 《カラミティフラッド》 種別:瘴気 瘴気を纏った双剣を上段で交差させて振り下ろしと同時に大量の瘴気を相手にぶつける技 さて、一気に決めますよ / 雑魚が、瘴気に呑まれろ! 《カラミティインフルエンス》 種別:瘴気 長剣に瘴気を纏わせて踏み込みと同時に鋭い突きを繰り出す技。瘴気は相手にいつまでも纏わりつき苦痛を与え続ける 耐えられますか? / 目障りだ! 《黒き恩寵》 種別:瘴気 契約主にプラーナを捧げることにより、瞬間的に高純度の瘴気を操る特殊能力 一瞬で良い・・・僕に力を! / いい気になるな! 《侵魔怨殺》 種別:瘴気 攻撃してきた相手を自分ごと膨大な量の瘴気で包み道連れにする特殊能力 勝負の切り札は、最後まで取って置く物です / それで勝ったつもりか? 笑わせるな 称号 落とし子 その存在自体知る物は限られる。日に日に蝕まれる体と心はいつまで耐えられるだろうか・・・。